コロナ後遺症って慢性疲労症候群?その3

感染症後ME/CFSの発生機序の仮説

感染症後のME/CFSは様々な病原体と関係していますが、その原因が何であれ症状は同じです。病原体が排除された後も長期間症状が残存し、測定可能な検査異常はありません。このため「ヒットエンドラン」仮説が提唱されていますが、これは感染症に暴露し、そのあとに影響を受けやすい人のみが持続的な免疫、神経、代謝経路におよぶ調節障害を発症することです。人間や動物モデルで、多臓器にわたるシステムや情報伝達が調べられましたが、各実験間で一致した所見は見られていません。感染症後のME/CFSのメカニズムはまだよく理解されておらず、複雑な要因によるようです。

免疫/炎症のメカニズム

感染症後のME/CFSはよく炎症性障害と称されますが、感染の病原体が異常な組織的な炎症反応を引き起こし、それが病原体が排除された後でも続くとされています。ME/CFSの病因における急性炎症反応と慢性的な炎症システムにおける調節障害は、変化した免疫細胞の機能、異常なシグナル伝達経路、慢性炎症、自己免疫現象を含んでいます。急性期の感染に続いておこる、炎症を誘発する状況に特有の、変化した免疫システム機能が持続するパターンが動物モデルで示されました。例えばマウスでは、ネズミコロナウイルスが感染したアストロサイトやミクログリアにおいては、中枢神経系に持続的な炎症を誘発する状態を作り出しますが、この現象は中枢神経に感染しないウイルスや未感染のコントロールでは見られません。急性感染性脳炎の脳内で5種類の炎症誘発性サイトカインが確認され、感染後30日の時点でも脊髄内で持続的に増殖していました。

ME/CFS患者でも全身性の慢性炎症や異常な炎症誘発性サイトカインの発現が示唆されています。例えば、多くの研究がME/CFSにみられるサイトカインネットワークの調節障害を重要視しています。最近のメタアナリシスでは健常人のコントロールに比べてTNAα量の変化、IL-2やIL-4の減少がみられています。しかしながら各研究の間でサイトカインレベルの変化は一致していません。64のサイトカインを分析したメタ解析では、ME/CFSとは関連性がないとの結果でした。

サイトカインの量よりもサイトカインの伝達やネットワークがより重要といわれています。また免疫細胞の機能異常もME/CFSと関係ある可能性があります。例えば弱まったTH1/TH17細胞の反応がME/CFSで報告されていますが、これはEBVなどの潜在的な感染のパターンと類似しています。ナチュラルキラー細胞や調整性T細胞の機能の変性もME/CFSで報告されてきました。感染症後の慢性的な免疫システムの調節障害には遺伝的素因がある可能性がありますが、ME/CFS症例で一貫して認められる炎症性バイオマーカー、変化した細胞機能、遺伝子多型はありません。

感染急性期に持続している組織障害に引き続く自己反応性のバイスタンダー細胞や分子擬態が、潜在的な自己免疫メカニズムとして提唱されてきました。例えば、重篤なCOVID-19感染症において抗核抗体やリウマチ因子の著明な上昇が認められていますが、これは自己反応性B細胞の活動性の亢進を示唆しています。ME/CFSにおいてムスカリン受容体やアドレナリン受容体への抗体が認められ、起立性調節障害症状との関連性が考えられています。しかしながら特異的なB細胞のフェノタイプや自己抗体が確立しているわけではありません。まとめますと、感染症後のME/CFSで免疫システムが影響をうけていることが明らかになっていますが、正確なメカニズムは不明で、複数の経路からなっているようです。

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COVID-19 and post-infectious myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: a narrative review. Poenaru S, Abdallah SJ, Corrales-Medina V, Cowan J.Ther Adv Infect Dis. 2021 Apr 20;8:20499361211009385. doi: 10.1177/20499361211009385. eCollection 2021 Jan-Dec