コロナ後遺症って慢性疲労症候群?その5

ミトコンドリア機能と疲労

疲労はME/CFSおよび原発性ミトコンドリア障害における特徴的な症状であるがため、ミトコンドリアの機能とME/CFSとの関係を調べる膨大なリサーチを生んできました。筋組織内のミトコンドリアの構造、代謝、エネルギー産生の変化は、ME/CFSにおける疲労や労作後の倦怠感と関係あるかもしれないからです。ウイルス感染後の疲労症候群(1988年Holmes診断基準)と診断された50人の筋生検の研究では、80%にミトコンドリアの変性、多型、重要な構造異常がみられましたが、健常者では52%にマイナーな構造変化がみられただけでした。炎症や抗酸化の過程に関与するミトコンドリア酵素は、起立性調節障害や労作後の倦怠感の促進因子として特に関心が高くなっています。これはそれらの酵素が心血管系における末梢血管拡張や自律神経調節に関係しているからです。

EBV感染後のME/CFS患者5人で遺伝子発現を調べた小規模の前向き研究では、ミトコンドリアの脂肪酸代謝、酸化、膜機能、アポトーシスに関するいくつかの遺伝子について、HLAタイプが一致した健常者グループと比べて有意差がありました。これらの所見はME/CFSにおけるミトコンドリア機能を調べた他の研究と同様に、酸化や脂肪酸代謝、エネルギー産生と関連した酵素レベルの変化を示すものです。最も頻繁に調査されたものの1つは抗酸化作用のあるコエンザイムQ10で、いくつかの研究でME/CFS患者では健常者より低いことが報告されています。

現時点ではME/CFSをミトコンドリア障害と分類したり、感染症後のME/CFSをミトコンドリア機能障害と結びつける十分なデータは揃ってはいません。ほとんどの研究はサンプルサイズが小さすぎるか、もしくは異なった診断基準や症例の定義のため比較困難であるか、もしくは結果の不一致のどちらかです。感染急性期に持続するミトコンドリアの異常を説明する明確でもっともらしい経路もありません。2つのシステムレビューがME/CFSにおけるミトコンドリア機能の役割を調べましたが、各研究間で構造、遺伝、代謝あるいは酸化の経路における異常に関する有意な一致はみられませんでした。

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COVID-19 and post-infectious myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: a narrative review. Poenaru S, Abdallah SJ, Corrales-Medina V, Cowan J.Ther Adv Infect Dis. 2021 Apr 20;8:20499361211009385. doi: 10.1177/20499361211009385. eCollection 2021 Jan-Dec