下剤で良くなったケース
南部侯の厩舎に勤める高瀬某の娘の例です。発疹がみられたものの一日で一旦あとかたなく治りました。その後心下痞鞕し、眼球固定して視線が合わなくなり、喘鳴もみられるようになり重症化しています。脈は洪数ですぐに悶え苦しんだあと気絶して死んだようになり、両親もただ抱き合って泣くばかりとなりました。浅田宗伯先生が診察すると、まだ脈はしっかりしています。そこで紫円を処方したところすぐに多量に嘔吐、下痢をして喘満もほぼなくなりました。その後麻杏甘石湯を処方して落ち着いています(1-002)。
紫円と麻杏甘石湯
発疹が一日で引いてしまっているので、「皮膚症状が十分出切らずに内攻して重篤化してしまった」ということでしょう。心下痞鞕、喘鳴があるということは、麻疹の炎症による水毒という邪が胃か食道あたりから肺も傷害しています。痞鞕の痞は自覚的な疼痛で鞕は他覚的な硬さです。眼の状態は脳症になりかけている可能性があります。紫円は走馬湯(巴豆、杏仁)という峻下剤に赤石脂、代赭石の収斂剤を加えてマイルドにしたもので胸腹部の水毒に用いられます。麻杏甘石湯は、発汗後もはや高熱はない状態において胸部に残った水毒と余熱を取り除くことで咳を鎮める作用があります。いずれにも含まれている杏仁は表証に裏証にも広い範囲で効果を発するようです。昔も今も感染症や炎症の病態や治療を考える上で、水の偏在や水分のバランスは重要です。
参考文献
宮崎本草会編著:句読点で読む橘窓書影. 万来舎, 2015
矢数道明:増補改訂版 臨床応用漢方処方解説. 創元社, 2004