出産後に脇が張って動悸めまいがするものに鍼砂湯
桜田街の半次郎の妻が6月に出産した後、胸から脇腹がつかえて苦しくなり、心窩部に動悸があり、激しい時には身体がふらふらして揺れるように感じるようになっています。浅田宗伯先生が診察して、原南陽の鍼砂湯を処方しました。服用して数日間で、夏の終わりから冬の中ほどまで永く続いた症状はすっかり治癒してしまいました(1-005)。
苓桂朮甘湯の応用処方
江戸時代後期の原南陽先生は産科領域で有名で、鍼砂湯以外にも今日エキス剤でみられる乙字湯や九味檳榔湯を創っていますが、いずれも浅田宗伯先生が加減したものとなっています。鍼砂湯は苓桂朮甘湯に鍼砂、牡蛎、人参を足したものです。苓桂朮甘湯は「胃内の停水を去り、気の上衝による動揺性症状を治すもの」ですが、そこに補血の鍼砂、収斂・鎮静の牡蛎、強壮・健胃の人参が加わっています。苓桂朮甘湯に補血の四物湯を組み合わせた連珠飲と方意が似ていると言えます。
参考文献
宮崎本草会編著:句読点で読む橘窓書影. 万来舎, 2015
矢数道明:増補改訂版 臨床応用漢方処方解説. 創元社, 2004