発熱、心窩部痛、嘔吐下痢に温補剤

痔疾にお灸した後の発熱、鼻血、心窩部痛、嘔吐下痢

龍土組屋敷の太田生の娘は長らく痔疾を患っていました。脱肛が治らず、数十壮お灸をしたところ、発熱、鼻血を認め、心下痞鞕して嘔吐下痢をするようになりました。ある医者が寒涼剤を用いて治療したところ症状が悪化しましたが、宗伯先生が理中湯を処方して軽快しました。他の医者が理中湯の効き目の緩いことを非難しましたが、宗伯先生は「痞には虚実がある。邪気が痞を形成している場合には疎剤を使用するのが良い。もし胃の中が空虚で気が衝逆して痞を形成しているのならば、これを攻める疎剤を用いると害がある。古方では下痢の後の膈の痞えには理中湯を用い、また理中湯で吐血を治すこともあるのは本当に理由のあることだ」と答えました。

理中湯の効果

理中湯は人参湯のことですが、太陰病で、裏つまり胃腸が虚して冷えて水分が停滞しているものに用います。発熱、鼻出血、心下痞鞕、嘔吐下痢とくると少陽病位の半夏瀉心湯などが頭に浮かびますが、寒涼剤で悪化したということは陰病なのでしょう。もともと痔疾や脱肛があり瘀血や気虚はあったものと考えられますが、そこにお灸をしすぎたのかもしれません。発熱、鼻出血は「気が衝逆して」生じたものでしょう。理中湯が用いられる病態で嘔吐下痢は想像に難くないですが、吐血や性器出血、痔出血など出血はなぜ起こるのでしょうか。太陰病は虚血や末梢循環不全により、血管内は脱水で間質に水分が逃げて浮腫になっていると考えられます。そのため血管内皮細胞障害や、冷えや浮腫によるさらなる循環不全が起こることで血管が破綻しやすくなるのでしょう。

参考文献

宮崎本草会編著:句読点で読む橘窓書影. 万来舎, 2015

矢数道明:増補改訂版 臨床応用漢方処方解説. 創元社, 2004