慢性疲労症候群:診断と治療のエッセンス その1

慢性疲労症候群は見逃されている

慢性疲労症候群は、もともと診断することがむずかしい疾患ですが、昨今のCOVID-19パンデミックにより、見逃されている症例がさらに増えている可能性があります。迅速で正確な診断と適切な治療は、慢性疲労症候群に対しても重要です。Lucinda Batemanらが、診断や治療のエッセンスをまとめていますので紹介していきます。

慢性疲労症候群と診断されるためには

慢性疲労症候群は、慢性的で身体のさまざまなシステムに影響する病態で、世界中で何百万人もの患者が闘病生活を送っています。高い疾病率や、著しい日常活動への影響にもかかわらず、医学教育の場で触れられることはほとんどありません。研修医などへのガイドラインも時代遅れで、多くは不適切ですらあります。標準的な検査ではたいてい異常は見られず、医療機関で慢性疲労症候群であることに全く気付かれないか、疑問すら抱かれないこともあります。最大で91%もの患者は見過ごされたり、うつ病など他の疾患と誤診されている、とする報告もあります。このため確定診断を得るために複数の医療機関に何年もかけて受診することもしばしばです。

治療もまた難しい

ようやく診断がついた後でさえも、患者が適切な治療を受けることは大変むずかしく、認知行動療法や段階的運動療法など症状を悪化させる可能性のある治療方法を処方されることもあります。2015年に米国のNational Academy of Medicineが慢性疲労症候群の新しい診断基準を作成しましたが、特に労作後の不調(post-exertional malaise:PEM)を特徴的な症状としています。米国のCenters for Disease Control and Preventionはこれらの新しい基準を受け、認知行動療法や段階的運動療法の推奨を取り下げ、慢性疲労症候群の専門家による最適な治療方法を取り入れ始めています。このように診断の迅速さや正確さ、そして治療の質を改善させる動きがみられています。

感染症の後に慢性疲労症候群

様々な感染症のあとには疲労などの症状が遷延することがあります。これらの「感染症後」疲労症候群は慢性疲労症候群に似ています。そして慢性疲労症候群もしばしば感染症に引き続いて起こることがあります。時に、伝染性単核球症、Q熱、ジアルジア症、もしくはコロナウイルスによって引き起こされるSARS(これはCOVID-19と類似しています)などの感染症に引き続いて慢性疲労症候群が発生することが報告されていますが、感染症の原因が検査されていない症例も多く実態は明らかではありません。COVID-19の急性感染の後では、入院したかどうかにかかわらず、多くの患者が何か月も衰弱や疲労症状の持続をみとめています。これらの長期症状の患者(long haulers:長距離運送業者、と表現されています)のうち、急性感染症により生じた肺や心臓などの臓器障害により疲労症状がみられる場合がある一方で、明らかな臓器障害がないにもかかわらず疲労症状がみられている場合もあります。

COVID-19でも慢性疲労症候群が見逃されているかもしれない

軽症から中等症の急性COVID-19患者の6ヶ月後の調査では、約半数の患者が慢性疲労症候群の診断基準を満たしていたという報告があります。またあるレビューでは、パンデミックの影響で慢性疲労症候群の患者は2倍になっている可能性があることを示唆しています。慢性疲労症候群の患者と同様、COVID-19感染後の患者も医療関係者に見過ごされていることを物語っています。この論文では、慢性疲労症候群の最近の知見を参照しつつ、成人の慢性疲労症候群症例の診断や治療の本質的な情報を提供することを目的としています。慢性疲労症候群に対しては正確で迅速な診断が重要で、治療者側にとってこれらの患者の健康、機能や生活の質を改善させる手段はたくさんあります。たとえ慢性疲労症候群に至らなくとも、COVID-19感染後の患者にとって、それらのアプローチが有益になることは多いでしょう。

 

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Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Essentials of Diagnosis and Management.        Lucinda Bateman, MD; Alison C. Bested, MD; Hector F. Bonilla, MD;
Bela V. Chheda, MD; Lily Chu, MD, MSHS; Jennifer M. Curtin, MD;
Tania T. Dempsey, MD; Mary E. Dimmock, BA; Theresa G. Dowell, DNP, MPT;
Donna Felsenstein, MD; David L. Kaufman, MD; Nancy G. Klimas, MD;
Anthony L. Komaroff, MD; Charles W. Lapp, MBME, MD; Susan M. Levine, MD;
Jose G. Montoya, MD; Benjamin H. Natelson, MD; Daniel L. Peterson, MD;
Richard N. Podell, MD, MPH; Irma R. Rey, MD; Ilene S. Ruhoy, MD, PhD;
Maria A. Vera-Nunez, MD, MSBI; and Brayden P. Yellman, MD. Mayo Clin Proc. November 2021;96(11):2861-2878  https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2021.07.004  www.mayoclinicproceedings.org