慢性疲労症候群:診断と治療のエッセンス その3

新しい診断基準では、4つの中核症状が必須

2015年に米国のNational Academy of Medicine (NAM、以前はthe Institute of Medicineと呼ばれていました) は新しい診断基準を発表しました。その新しい基準では、疲労、PEM (post-exertional malaise、労作後の倦怠感)、睡眠障害、そして認知機能障害/起立性調節障害の2つのうちいずれかを中核症状とした重篤な機能障害を必須条件としています。症状は少なくとも中等度以上で、6か月間にわたり50%以上の期間で症状がみられることとなっています。その他の重要な所見として、発症前における感染症への罹患、広範囲にわたる疼痛、ナチュラルキラー細胞の活性低下が挙げられています。その他にも、インフルエンザ様症状(咽頭痛、リンパ節の圧痛)、外界からの刺激への過敏性(食品、匂い、光、音、触覚、化学物質)、易感染性、視力障害、胃腸症状、泌尿生殖器症状、呼吸困難をはじめとする呼吸器症状、体温調節の障害などが挙げられます。

新基準により慢性疲労症候群を拾い上げる

このNAMの新基準を用いることにより、中核症状を基にして積極的に診断をつけることが可能となります。さらに言うと専門家はしばしば2003年のカナダの診断基準や2011年の国際コンセンサスクライテリアを用いて慢性疲労症候群の診断を確定させています。

労作後の倦怠感(PEM)が重要な所見

特徴的な症状であるPEMの存在はある患者の、もしかすると全ての患者における症状の悪化を意味しています。そして、以前は問題のなかった身体、認知機能、起立、感情、感覚などの負荷が、さらに機能の低下をひきおこすということでもあります。

PEMには以下のような特徴があります。

・急性の、あるいは遅発性の発症です。負荷の数時間後から数日後に発症します。

・長期間に及びます。患者の状態が元のベースラインに戻るまで、数日、数週間、あるいは数ヶ月かかります。

・負荷と症状の強さが不均衡です。意外なことにPEMの程度と期間は、PEMのトリガーの大きさと釣り合いません。中等症の症例では、数時間や1日の労働はPEMの引き金になりえますが、重症者では、日常生活の基本的な活動でさえもそうなることがあります。

これまでの基準では不十分

注目すべき点は、労作後の疲労や筋骨格系の疼痛は健常者や他の疾患の患者(例えば関節症など)でもふつうにみられますが、慢性疲労症候群では身体機能の低下や一連の症状(睡眠、記憶、集中力、咽頭痛などインフルエンザのような感じ、気分など)が際立っているということです。NAMの診断基準ができるまでは、通常1994年のフクダ基準が診断に際して用いられていました。フクダ基準の方法は除外診断で、医学的に説明不可能な慢性疲労であるということを条件としましたが、それは必ずしも新基準のようにPEMや他の重要な症状があるということではありません。担当医は疲労の可能性のある疾患を否定さえすればよいと信じ込み、結果的に慢性疲労症候群の診断の遅れや回避につながっていました。NAMが指摘しているように、フクダ基準で診断された患者は、必ずしも新しい慢性疲労症候群の基準を満たさず、再評価する必要があります。

 

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Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Essentials of Diagnosis and Management.        Lucinda Bateman, MD; Alison C. Bested, MD; Hector F. Bonilla, MD;
Bela V. Chheda, MD; Lily Chu, MD, MSHS; Jennifer M. Curtin, MD;
Tania T. Dempsey, MD; Mary E. Dimmock, BA; Theresa G. Dowell, DNP, MPT;
Donna Felsenstein, MD; David L. Kaufman, MD; Nancy G. Klimas, MD;
Anthony L. Komaroff, MD; Charles W. Lapp, MBME, MD; Susan M. Levine, MD;
Jose G. Montoya, MD; Benjamin H. Natelson, MD; Daniel L. Peterson, MD;
Richard N. Podell, MD, MPH; Irma R. Rey, MD; Ilene S. Ruhoy, MD, PhD;
Maria A. Vera-Nunez, MD, MSBI; and Brayden P. Yellman, MD. Mayo Clin Proc. November 2021;96(11):2861-2878  https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2021.07.004  www.mayoclinicproceedings.org