慢性疲労症候群:診断と治療のエッセンス その4

原因は不明だが、神経・免疫・自律神経・エネルギー代謝の障害

慢性疲労症候群の正確な原因は不明ですが、様々な研究により神経、免疫、自律神経、エネルギー代謝の障害であることが示されています。以下に鍵となる所見、①PEM(post-exertional malaise:労作後の不調)とエネルギー代謝の障害、➁リフレッシュしない睡眠、③認知機能障害と神経学的異常、④起立性調節障害と自律神経異常、⑤免疫機能低下、⑥感染症について紹介していきますが、この他にも多くの所見が報告されています。今回紹介するのは、①PEMとエネルギー代謝の障害について、です。

適度な運動でも症状を悪化させてしまう

健康な人でも病弱な人でも、身体的なエクササイズは疲労、睡眠、疼痛、認知機能、気分を改善します。これとは対照的に、慢性疲労症候群の患者はPEMを体験し、本人の一連の症状が明らかに悪くなり、また以前は許容範囲であった身体、認知、起立、感情、感覚などのストレスの後にも、更に機能低下が起こります。患者の報告、もしくは数値で測定される生理学的検査の両方の方法で、複数の研究がこれらの所見を確認しています。

体力低下ではなく、エネルギー産生における分子的な異常

過去には、ある内科医や科学者たちは、これらの活動の制限は、長期臥床による体力の低下や、身体的活動への非合理的な恐れが原因であると疑っていました。慢性的に運動不足の人々は体力が低下しやすいですが、体力低下では慢性疲労症候群の症状を説明できません。むしろ、アデノシン3リン酸(ATP)という、主要なエネルギーに関する分子を産生したり消費したりすることが、慢性疲労症候群の根本的なきっかけである可能性を示す証拠があります。

運動の翌日、エネルギー効率が低下してしまう

例えば、座りがちでも健康な人々や他にいくつかの慢性疾患を持っている人々が2日間連続で最大限のエクササイズをした後に行うエネルギーテストの結果は、初日と2日目で大きな変化はありません。その人たちは健康で身体的に問題のない人々ほど有効に酸素を使用できないかもしれませんが、テストを繰り返してもエネルギー効率は同レベルを保っています。対して、慢性疲労症候群の患者ではテストを繰り返すと翌日にはエネルギーを産生する能力が低下します。例えば、換気性作業閾値の仕事量、つまり有酸素運動能力の指標は著明に低下しますが、ある研究では最大55%低下しうると報告しています。

エネルギー代謝の分子レベルでの異常がある

血液、脳脊髄液や筋肉組織における乳酸値の上昇やアシドーシスの増大を報告している研究もあります。このことは乳酸の産生の増加、もしくは代謝の低下を意味しています。細胞は好気性の代謝が損なわれると、嫌気性の代謝に切り替えますが、そのことでより多くの乳酸を産生します。しかし乳酸によるATPの産生はグルコースに比べて分子当たり18倍少なくなります。エクササイズの繰り返しは、健常者やその他の状態の人々では乳酸の排泄を改善しますが、慢性疲労症候群ではそうなりません。さらに慢性疲労症候群では、重症の患者では解糖系の働きが中等症の患者より障害されていることも指摘されています。これらの変化は、以前は可能であった仕事や、持続的な活動がなぜ困難なのかを説明できるかもしれません。1つ以上のエネルギー産生システムへのダメージということが、しばしば重症患者の活動が、著明に制限されることへの説明となるかもしれないのです。Tomas、Newton、Rutherfordらはこれらの代謝の問題の包括的なレビューを作成しました。

労作後には、脳内で免疫システムの異常がおこる

労作は脳機能や免疫システムともまた関係しています。MRIを用いることで、Cookらは労作後の変化した脳活動は、労作後の症状の悪化や認知機能の悪化を伴うと報告しています。Maesらは、PEMがインターロイキン1の上昇と関係があることを発見し、Nijsらは補体の分解産物、酸化ストレス、インターロイキン10の遺伝子発現の増加を明らかにしました。脳における、インターロイキン1、10などの免疫システムに関わる分子の増大は、疲労、疼痛、インフルエンザ様症状、認知機能障害などの症状を引き起こしえます。これらの客観的な変化は患者のPEMに伴っている、または寄与している可能性があります。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………

Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Essentials of Diagnosis and Management.        Lucinda Bateman, MD; Alison C. Bested, MD; Hector F. Bonilla, MD;
Bela V. Chheda, MD; Lily Chu, MD, MSHS; Jennifer M. Curtin, MD;
Tania T. Dempsey, MD; Mary E. Dimmock, BA; Theresa G. Dowell, DNP, MPT;
Donna Felsenstein, MD; David L. Kaufman, MD; Nancy G. Klimas, MD;
Anthony L. Komaroff, MD; Charles W. Lapp, MBME, MD; Susan M. Levine, MD;
Jose G. Montoya, MD; Benjamin H. Natelson, MD; Daniel L. Peterson, MD;
Richard N. Podell, MD, MPH; Irma R. Rey, MD; Ilene S. Ruhoy, MD, PhD;
Maria A. Vera-Nunez, MD, MSBI; and Brayden P. Yellman, MD. Mayo Clin Proc. November 2021;96(11):2861-2878  https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2021.07.004  www.mayoclinicproceedings.org