睡眠しても休息が取れていない
➁リフレッシュしない睡眠。 慢性疲労症候群では、入眠障害や中途覚醒などのように、様々な睡眠障害がみられます。しかしこれらの症状が治療されたとしても、ほとんどの患者では起床時に疲労感や体調不良が残ります。自律神経系によって調節されている心拍数の変動が、慢性疲労症候群や他の病態におけるリフレッシュしない睡眠と関係しています。さらに、慢性疲労症候群では夜間の副交感神経の活動が、交感神経に比べて相対的に低下していますが、これは休息時にみられる自律神経の状態と逆になっています。
脳神経の炎症により脳機能が低下している
③認知機能障害と神経学的な異常。 慢性疲労症候群でみられる最も普遍的な認知機能障害は、情報処理速度の低下です。他の異常所見として、反応時間、短期記憶、注意力の低下もみられます。これらの認知機能の欠陥は努力不足、不眠症、気分障害のためではありません。それは、患者が締め切りに追われたり、厳しい要求を伴う仕事であったり、複数の仕事を同時に行っているときに顕著になります。一方で運動の速度、言語能力、総合的な論理能力は保たれています。脳研究では脳白質での炎症や機能低下を認めており、おそらく灰白質でも同様であると考えられます。脳神経の炎症は認知機能障害や脳の様々な領域のネットワークを傷害しているのです。
起立性調節障害が起こりやすい
④起立性調節障害と自律神経失調。 慢性疲労症候群患者の最大95%において、頭を上にしてじっとしている姿勢でいること(例えば長時間の立位や座位)で、ふらつき、嘔気、倦怠感、動悸や認知機能障害を惹き起こしたり悪化したりします。座位や仰臥位をとると症状は楽になります。この現象は起立性調節障害と呼ばれていて、起立性低血圧、体位性頻脈症候群、神経調節性低血圧を含んでいます。客観的な生理学的異常は以下の通りです。
・受動立位やヘッドアップチルト試験後の異常な脈拍や血圧の変化
・立位や座位での脳血流の25%の低下
・活動のレベルと、あるいは体力低下が慢性疲労症候群の原因であるという説と、一致しないような著明な心拍出量や心係数の低下
・起立時の低二酸化炭素血症や循環血症量の減少、そしてそれらに伴って起こる、自律神経失調症状の一層の悪化
消化管、尿路、体温調節、視覚に関する問題もまた報告されていますが、詳しく研究はされていません。
免疫機能が低下するが、原因なのか結果なのか明らかではない
⑤免疫機能低下。 平均的には、慢性疲労症候群の患者のナチュラルキラー細胞の活性は健常群に比べて低くなっています。この所見が慢性疲労症候群の原因なのか、結果なのか、単に付随している現象なのかはまだ分かっていません。慢性疲労症候群の患者は、クリプトスポリジウム症や結核など、日和見感染の徴候を呈するわけではありませんが、ある患者はヘルペス感染症を繰り返し経験します。また他の人々に比べて感冒症状になりやすく、回復する時間も長くなっている可能性もあります。慢性疲労症候群の患者の1/4は免疫グロブリンが低下している可能性があり、またEBウイルスへの感染をコントロールしにくいという報告があります。T細胞やサイトカインの異常な変化も報告されています。
病原体も、原因なのか免疫異常の結果確認されるのか不明
⑥感染症。 慢性疲労症候群はしばしば感染症に引き続き発症しますが、特定の病原体が同定されていないことも多くみられます。これははじめ感染症症状がとても限局的だったからでしょう。一方で、EBウイルスによる伝染性単核球症やジアルジア症による下痢のように、よく報告されている感染症に引き続き発症することもあります。多くの慢性疲労症候群の患者では、様々な潜伏している病原体(例えばEBウイスル)の再活性が報告されていますが、その病原体が症状を起こしているのか、単に抑制され、混乱した免疫システムの結果なのかは不明です。あるいは、慢性疲労症候群の慢性化は、感染症が引き起こした自己免疫応答の結果であるかもしれません。
Bela V. Chheda, MD; Lily Chu, MD, MSHS; Jennifer M. Curtin, MD;
Tania T. Dempsey, MD; Mary E. Dimmock, BA; Theresa G. Dowell, DNP, MPT;
Donna Felsenstein, MD; David L. Kaufman, MD; Nancy G. Klimas, MD;
Anthony L. Komaroff, MD; Charles W. Lapp, MBME, MD; Susan M. Levine, MD;
Jose G. Montoya, MD; Benjamin H. Natelson, MD; Daniel L. Peterson, MD;
Richard N. Podell, MD, MPH; Irma R. Rey, MD; Ilene S. Ruhoy, MD, PhD;
Maria A. Vera-Nunez, MD, MSBI; and Brayden P. Yellman, MD. Mayo Clin Proc. November 2021;96(11):2861-2878 https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2021.07.004 www.mayoclinicproceedings.org