桂枝について1

桂枝の性味と効能

桂枝は多くの方剤に用いられ、「傷寒論」の中で113方剤のうち44方剤に含まれています。その作用機序は複雑で適応範囲は大変広く、現代医学における単一の病態や病名で表すことは困難です。その味は「辛」で、辛味は発散の働きがあり、発汗によって表邪を発散して解するとされています。まず、①散寒解表で、麻黄と組み合わせて無汗の風寒感冒を治療し、麻黄の発汗作用を助けます。白芍と組み合わせると有汗の風寒感冒を治療し、調和営衛、解肌止汗の作用を持ちます。②温経・祛風寒・活血通絡で、当帰・赤白芍・川芎・紅花・桃仁などと組み合わせて月経後期、経閉不潮、月経痛、腹部癥塊に対して用います。また片姜黄(活血化瘀薬)・防風とともに風寒阻絡、血気不暢による肩腕の疼痛に用います。赤芍・紅花などを配合して骨節が拘攣して伸ばせないもの、肢体の疼痛に対して用います。羗活・独活・防風・威霊仙(祛風湿薬)・当帰・附子などと組み合わせて、風・寒・湿が引き起こす関節痛や四肢の疼痛に用いますが、特に風湿性、リウマチ性の関節炎によく用いられます。③助心陽・温化水飲で、茯苓・猪苓・白朮・沢瀉・紫蘇子・桑白皮・炙甘草などを配合して、心悸・怔忡(心悸より症状が強く持続的)・浮腫などに用います。栝楼(清熱化痰薬)・薤白(理気活血薬)・紅花・五霊脂(活血化瘀薬、人参と相畏)とともに心陽不振による胸痺心痛に用います。④その他、桂枝には肢節へと横行し通すという特徴があり、諸薬を横行させて肩・腕・手指に至らせるため、上肢の疾病への引経薬となっています。

桂枝の証

桂枝の証は、①発熱あるいは自覚的な熱感、汗をかきやすく、はなはだしければ自汗・悪風・寒冷に対して敏感で、関節痛を生じやすいものです。発熱は微熱か、わずかな自覚的熱感がみられ、同時に汗が出て、悪風や寒気を伴います。診察時に手掌や腹部の皮膚が湿潤していることが多いです。②腹部に自覚的な上衝感、あるいは拍動感を覚え、動悸・驚きやすい・のぼせ・不眠なども生じやすいです。腹部の上衝感や拍動感を「奔豚」または「臍築」といいますが、腹部大動脈の拍動は通常感知しにくいですが、神経過敏状態で認められやすくなります。また、驚きやすい・不眠・動悸なども同様です。桂枝の証は体温調節・汗腺分泌・血管運動・精神神経状態などの機能平衡が失調した状態であると考えられます。

参考文献:黄煌著「KAMPO十大類方」メディカルユーコン社、焦樹徳著「名医が語る生薬活用の秘訣」東洋学術出版社