表と裏
桂枝湯証とは典型的な「表虚証」といえます。表は裏と相対しますが、表裏とは病位つまり病の位置です。病が身体の表面にあるものは表で、汗腺、皮膚、皮下組織、関節、上気道の病変の多くは「表証」とされ、具体的な症状として発熱、悪風、悪寒、無汗もしくは発汗異常、身体痛、脈浮、舌苔薄などが挙げられます。一方、病が内蔵レベルにあるものは裏で、消化器、循環器、内分泌、血液、中枢神経などの臓器やシステムにおける病変の多くは「裏証」とされ、症状として便秘もしくは下痢、腹痛、イライラや不安感など精神や情緒の不安定、身熱、口渇、四肢の冷感、脈沈、舌質紅、舌苔厚などです。
虚と実
虚と実という相対する表現は病勢を指し、生体側の抵抗力と平衡調節力の動態を分析したものです。虚とは、正気虚のことで、生体の抵抗力が低下し生理機能が減退していることを指します。一方、実とは邪気が旺盛なことを指し、病邪の毒の力が強く、それに対する生体の抵抗力も衰えていない状態です。
虚実を家に例えると
「虚」は空虚を意味し、分泌過多、収斂不足です。「実」は充実を意味し分泌不足、収斂有余です。具体的に家の門に例えてみますと、門が開いていて人々が自由に出入りできる状態が虚であり、門がしっかり閉じていて風が吹き込まず、人々も出入りできない状態が実です。
人体には多くの門がある
人体には各種各様の門があります。鬼門(毛根)、賁門(胃の入り口)、肛門などです。これらの門は正常の生理機能下においては開いたり閉じたりして人体の正常な生理活動を維持していますが、一旦病気にかかると、どこかの門の開閉機能が失調し、開いたままになったり閉じたままになったりするようになります。「開」は虚、「閉」は実にそれぞれ相当します。鬼門がいつも「開」であれば多汗、過汗、自汗となり、これを表虚といいます。鬼門がいつも「閉」であれば無汗、悪寒、皮膚乾燥となり、これを表実といいます。また、肛門がいつも「開」であれば大便泄瀉、稀溏(水様便)、脱肛となり、これを裏虚といいます。肛門がいつも「閉」であれば、便秘となり排便回数が減少し、腹痛して腹部を押さえられることを嫌がるようになり、これを裏実といいます。桂枝湯証は悪風、自汗、発熱でしたが、上記のことから「表虚証」であることになります。
参考文献:黄煌著「KAMPO十大類方」メディカルユーコン社