桂枝湯から薬量を変化
桂枝湯に膠飴を一味加え、さらに方中の芍薬の量を桂枝の2倍として、桂枝湯の作用を補虚止痛に変化させたものが小建中湯です。「傷寒論」では、「腹中急痛には、まず小建中湯を与う」とあり、「金匱要略」では「虚労にして裏急し、悸し、衄し、腹中痛み、夢に失精し、四肢酸疼し、手足煩熱し、咽乾き口も燥くは小建中湯之を主る」としています。「虚労急痛」とは疼痛のことですが、程度こそそれほど激しくないものの繰り返し起こり、同時に動悸、煩熱、多夢、鼻衄などの虚弱体質による症状を伴う発作性の痙攣性絞痛です。この種の疼痛には、桂枝証の慢性腹痛、あるいは桂枝体質の慢性腹痛、動悸、虚弱を伴うことが多くみとめられます。
小建中湯の証
小建中湯証として、①慢性腹痛に動悸、煩熱、虚弱、腹部扁平で筋肉緊張を伴う、②舌質嫩、舌苔少、が挙げられます。腹壁が薄く腹直筋の緊張は桂枝体質の患者によくみられますが、一般に太鼓腹や肥満者の腹痛には小建中湯証が見られることは極めて少ないといえます。舌質が嫩(どん)とは、若々しく柔軟で光沢があることですが、もし舌質が堅老(かたい)で舌苔が厚ければ、これらは身体が充実していて内側に実熱、瘀血があることが多いので、小建中湯は適応となりません。
小建中湯の適応疾患
小建中湯は痙攣性の腹痛に対しては治療効果が大いに期待できます。臨床指標として、腹痛が発作性で、腹筋緊張あるいは腹部膨満、腹皮は押さえると硬いが中は空虚、舌質は多くは嫩紅偏暗、舌苔は薄白か少苔であることなどです。この種の腹痛は胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、神経性胃腸障害、結核性腹膜炎、胆石症、尿管結石など多種の疾病においてみられます。
桂枝加芍薬湯
本方から膠飴を取り去ったものは桂枝加芍薬湯で、痙攣性便秘に用いられますが、その便の性状は乾燥して塊状のものが多く、同時に腹痛もみられます。また膠飴は甘味が強いため、甘味を好まなかったり、摂るべきではないもの、あるいは病状の経過が急性のもの、腹痛の程度が比較的重いものに適応となります。
小児への適応
小建中湯は虚弱な小児の体質改善薬として使用されます。この種の小児は、色白で瘦せ型、毛髪は枯黄を呈し、驚きやすく、多汗で、食欲不振、脈は虚にして浮のことが多くみられます。このような症状を伴う夜尿症、腹痛、寝汗にも効果が期待できます。神経性の胃腸障害にも重用され、性格が内向的で学校に行きたがらず、朝学校に行く頃に腹痛が起こる子供に用いられます。
小建中湯の加減方
小建中湯には芍薬、甘草が含まれますが、芍薬、甘草が配合される代表的な方剤は「傷寒論」の芍薬甘草湯です。この方剤は、外感病に汗法を誤用して生じた脚攣急を治療するものですが、後世においてその応用範囲は広く、腓腹筋の痙攣、三叉神経痛、顔面痙攣、坐骨神経痛、胃痙攣、胃・十二指腸潰瘍、吃逆、胆石症、回虫症、尿管結石などへの使用報告が見られます。特に消化管の平滑筋や腓腹筋の痙攣に対しての治療効果が優れており、鎮痙や止痛の処方の多くに芍薬甘草湯が含まれています。その他、臨床では小建中湯はよく加減して用いられます。補血益気作用のある黄耆を加えた黄耆建中湯は小建中湯証で貧血、自汗、感冒にかかりやすいものに用いられます。養血調経作用のある当帰を加えた当帰建中湯は、女性の産後の身体痛、腹痛および月経痛などに用いられます。
参考文献:黄煌著「KAMPO十大類方」メディカルユーコン社