感冒症状としての筋肉痛

感冒後に右下肢がひきつり痛む

広尾の幕臣、辻氏の妻が感冒になり、解熱後右下肢がひきつり、腫れて痛み歩行することができなくなりました。脈は浮数、すなわち浮いて頻回です。解熱しても脈が浮数なのは感冒の邪気が下肢の方に入ってしまい、経脈で血や気の巡りができないためです。そこで「金匱要略」の続命湯を処方し4~5日で治癒しました。浅田宗伯先生は、このような症例や歴節風(風寒湿の邪による関節炎)、越婢湯の証で血虚の傾向のあるものに続命湯を用いて治療されています。また後世方の五積散が適応である症例にも速効するので古方の処方を軽侮してはならない、と述べています(1-004)。

気血両虚があるから「続命」湯

感染症などの炎症で産生されるプロスタグランディン、ブラジキニンなどが筋膜に作用して筋肉痛が起こります。もし筋肉そのものに原因があるならば芍薬も入っていそうなところです。炎症では発熱や浮腫が起こりますので熱や湿を取り去る作用が必要です。続命湯は確かに麻黄、桂枝、石膏、杏仁にその作用がありますが、その他に人参、当帰、川芎、乾姜など急性期の炎症にあまり用いられない生薬が配合されています。もともと脳血管障害やその後遺症に用いられていた処方ですので、名前も「続命」なのでしょうが、気血両虚という全身状態にも配慮していることが分かります。その場合には湿は脳浮腫を指すのかもしれません。今回の症例でも越婢湯を使うにしては気血の虚が明らかだった、ということでしょう。

参考文献

宮崎本草会編著:句読点で読む橘窓書影. 万来舎, 2015

高山宏世:金匱要略も読もう. 東洋学術出版社, 2016