コロナ後遺症って慢性疲労症候群?その2

感染症後のME/CFSについて

20世紀を通じて、感染症のアウトブレイク後にME/CFS様の症状は度々報告されてきました。慢性疲労、無気力、倦怠感、睡眠障害、集中力の低下、そして身体活動やストレス後の症状増悪などがしばしばみられています。当時は診断基準はありませんでしたが、これらの症状の範囲は感染症後のME/CFSを強く示唆しています。ME/CFSの診断基準や生物学的な診断方法が進化するにつれ、感染症とME/CFSの密接な関係がはっきりしてきました。

EBウイルス(EBV)による伝染性単核球症が最も関連が明確な感染症です。成人の急性EBV感染症301例の前向き研究では、1994年のCDC基準において6ヶ月後に13%の症例でME/CFSに合致し、24ヶ月後でも依然4%が合致しています。Q熱やウェストリバーウイルスなどでも似たような結果になっています。その他にも広範囲のウイルスや細菌感染がME/CFSの発症リスクとなっている可能性があります。例えば前向きコホート研究で、かかりつけ医から何らかのウイルス感染症と診断された患者618例のうち12.9%が6ヶ月の時点で慢性疲労のスコアを満たしました。長期間の観察では、EBV、ウエストリバーウイルス、Q熱、もしくは確定診断に至らなかった発熱性疾患で、原因によらず発症率や重症度は同じでした。

ME/CFSと流行病

1918年のインフルエンザの大流行では、慢性的な不調、疲労、無気力、集中力低下を経験し、そして労作後に増悪する生存者が40%に達しました。もっと最近では2009年ノルウェイでのH1N1インフルエンザ流行後の調査で、ME/CFSのリスクの増大が判明しました。最近のコロナウイルスの感染症では、2002年のSARS、2012年のMERSを含む研究で、疲労、広範囲の疼痛、リフレッシュしない睡眠、労作後の増悪、認知機能の変化といった複数の持続的な症状がみられています。233例のSARS症例の調査では、生存者の27.1%が感染後41か月の時点でなお1994年CDCの基準を満たしていました。MERSおよびSARS症例のメタ解析では、感染後39ヶ月の時点まで19.3%に持続する疲労感を認めました。

インフルエンザやコロナウイルスでは持続する疲労感だけでなく、神経認知機能の合併症がみられています。例えば1918年のパンデミック後では、精神障害による初回入院が数年間で7.2倍増加しています。もっと最近ではH1N1インフルエンザでARDSとなった37例の調査では、1年後に、50%に不安症状、28%にうつ症状、41%にPTSD症状を認めています。H7N9インフルエンザの生存者は感染後24か月後のメンタルヘルススコアの低下を認めています。SARSおよびMERS感染症の生存者の長期症状のメタ解析では、14.9%にうつ症状、14.8%に不安症状、32.2%にPTSD症状を認めていますが、通常は7%の発症率にとどまります。

ある調査でSRAS感染後のME/CFS患者に精神症状の合併が多くみられましたが、感染初期症状の重症度や他の併存症、年齢、性別とは関連はみられませんでした。一方で、もともと存在している精神状態はEBV感染後のME/CFSの発症とは関連性がありませんでした。このSRAS感染症の生存者におけるME/CFSと精神疾患の発症率の増加は、SARS感染症というストレスフルな人生のイベントが、ME/CFSの独立した発症リスクであることを反映している可能性があります。これまでのエビデンスでは、ウイルス感染の流行と感染後の慢性症状にはとりあえず関連性があり、その慢性症状はME/CFSの診断基準と一致する、ということです。

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COVID-19 and post-infectious myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: a narrative review. Poenaru S, Abdallah SJ, Corrales-Medina V, Cowan J.Ther Adv Infect Dis. 2021 Apr 20;8:20499361211009385. doi: 10.1177/20499361211009385. eCollection 2021 Jan-Dec