桂枝湯3

調和営衛

桂枝湯は臨床的または薬理的には、解熱、抗アレルギー、抗炎症、鎮痛、鎮静、健胃などの作用があると考えられます。桂枝湯の生体に対する作用は決して単一的、局所的なものではなく、神経、血管、免疫など生体に内在する整体機能を調整するとされています。このことは古来中医学で「調和営衛」と呼ばれてきたことです。営とは全身を営養する精微の陰気であり、衛とは生体防御、身体の外の防衛である衛外の陽気です。営衛が調和していますと、生体は強健で病気にかかりにくくなり、汗のかき方は正常になります。逆に営衛が失調しますと自汗や盗汗を認め、悪風、怯冷して感冒やその他の感染症にかかりやすくなります。営衛という二つの気は生体の平衡機能と防御機能に相当し、生体の健康を維持するうえで重要な役割を果たしていると考えられます。この営衛調和の作用は大変重要であり、桂枝湯は臨床の様々な領域で広く応用されています。

桂枝湯の臨床応用

発熱には高熱、微熱、感染性、非感染性あるいは原因不明なものまでさまざまありますが、桂枝湯証があれば桂枝湯が良い適応になります。その他にも、自汗、盗汗、頭部の発汗、他の局所の多汗、黄汗(汗をかくと衣服が黄色く染まるもの)などの発汗異常、動悸、皮膚疾患などが挙げられます。また、傷寒論に記載されている桂枝湯証として「鼻鳴」があります。悪風や自汗の患者はアレルギー体質に多く見られ、中でもアレルギー性鼻炎や気管支喘息をもつ症例が少なくありません。この場合特に薄い鼻水や薄い痰の多いもの、舌苔が白滑のものには桂枝湯に細辛や附子を加えると良い効果が得られることがあります。また葶藶子、蝉退などもアレルギー性鼻炎に良いとされています。妊娠悪阻でも悪風や乾嘔がみられやすく、桂枝湯やそれに加えて半夏、人参、乾姜が用いられます。

桂枝湯の加味方

桂枝湯の加味方は数多く見られます。附子を加えたものは桂枝加附子湯で、桂枝湯証で関節の激痛があり、冷汗が多いものに用いられます。厚朴・杏仁を加えると桂枝加厚朴杏仁湯で、桂枝湯証で胸満腹脹、咳嗽、喘息、多痰のものに用いられます。大黄を加えると桂枝加大黄湯で桂枝体質の便秘に用いられます。黄耆を加えると桂枝加黄耆湯で、自汗、盗汗、黄汗があって浮腫、小便不利のみられるものに用いられます。人参を加えると新加湯で、多汗、動悸、頭昏、食欲不振のられるものに用いられます。葛根を加えると桂枝加葛根湯で、桂枝湯証に項背拘急あるいは下痢を伴うものに用いられます。このように桂枝湯は応用範囲が非常に広い方剤です。

桂枝湯の禁忌

桂枝湯を服用した後は、熱い粥を啜り、布団をかぶって暖かくして発汗させて、薬の効力を助けるようにします。生ものや冷えた食品、脂っこいものや消化しにくいものは避けるようにします。そのほか、肥満体型や、発熱や悪寒して無汗のもの、あるいは発熱、煩燥、口渇して水を飲みたがるもの、舌質紅、舌苔乾あるいは黄膩のものには禁忌もしくは慎重に用いるとされています。

 

参考文献:黄煌著「KAMPO十大類方」メディカルユーコン社