摂取する炭水化物の制限は、血糖コントロールや体重管理(ダイエット)に確実な効果を発揮します!
当院でも、「ある程度」の炭水化物制限を、患者さんにお勧めしています。
しかし、「炭水化物制限」には落とし穴があります。もれなく落とし穴にはまらないように、炭水化物制限をぜひ成功させてくださいね。
落とし穴はこの2つです。
落とし穴その1:一切の炭水化物を断とうとしてしまう
まず起こること:食べるものがなくなる。
これ、始めるときに試みてしまいがちなことです。
平均的な日本人では、1日の摂取カロリーのうち、だいたい50%を炭水化物で摂取しています。
炭水化物を一切断とうと思うと、もともと1日に2000kcaLとっている人なら、一気に1000kcalまで減ってしまいます。
摂取カロリーが今までの半分になってしまえば飢餓状態になり耐えられないので、不足しすぎる分を、炭水化物以外のなにかで補わないといけなくなります。
例えば、足りない1000kcaLのうち、500kcaLでも他のもので補おうとすると…
鶏むね肉なら毎日500g余分にとらねばなりません。
これは結構大変(というか無理?)ですし、家計も圧迫します。なにより、タンパク質のとりすぎは確実に腎臓を悪くします。
サラダ油だったら70mL程度とらねばなりません。
毎日揚げ物を食べないといけません。
コレステロールや中性脂肪が恐ろしく上がります。(実際によく経験します)
結局、食べるものがなくなり、脂質や腎機能に影響がでて、続けられません。
次に起こること:せっかくダイエットに成功しても、恐怖のリバウンド
それでも、短期間であれば、一切の炭水化物を排除できる強い意志力の持ち主もいらっしゃいます。(純粋にスゴイ…)
意志力が強ければ、10㎏位減らせることもまれではありません。(ライ〇ップも徹底的な炭水化物制限で減量させますし。)
しかし、今まで行われた炭水化物制限食に関する臨床試験や、実際のダイエッターの体重の推移から見えてくる、非常に重要なことがあります。
それは、「極限まで炭水化物を制限して痩せると、リバウンドが極めて速い」ことです。
なぜリバウンドするのでしょうか??
炭水化物を一切排除した食事を一生続けることは、誰にもできない、ということではないかと思います。
気軽に友人と食事にも行けませんし、
それでも気合で続ければ、徐々に腎臓や脂質のデータが悪くなってしまいます。
落とし穴その2:なんちゃって炭水化物制限になってしまう
このように、炭水化物を一切排除しようとすると、色々問題が生じてきますが、「ある程度の炭水化物制限」は、確実に効果があります。
そこで、2つめの落とし穴はコレ。
炭水化物を制限しているつもりで、全く制限できていないということが結構あります。
炭水化物は、ご飯やパン、麺類だけではありません。
クッキー、アイス、ポテチ → お菓子はすべて炭水化物(と油)です。
ジュース → 炭水化物(糖質)です。
ギョーザ、揚げ物の衣 など → おかずもメニューによっては炭水化物(と油)のかたまりです。
果物 → 炭水化物が結構含まれています。(もちろんお菓子よりはよいですが…)
ご飯や、パンを食べていないから、と思っているけど、実際には十分すぎるほどの炭水化物(と油)をとっていた、ということも結構あります。
糖尿病患者さんが炭水化物制限をしたら、血糖はよくなる?
結論から言うと、炭水化物を制限すれば血糖値はよくなります。
このため、当院でも、患者さんに応じて、ある程度の炭水化物制限をお勧めしています。
ちなみに、炭水化物が血糖値を上げるのは有名ですが、
ほかの栄養素(タンパク質や脂質)は血糖値を上げないのでしょうか?
「炭水化物が血糖値を上げる」のではなく、「急激(食後1-3時間)に血糖値を上げるのが炭水化物」という理解でよいと思います。
タンパク質は6時間くらい、油は12時間くらいにわたり、じわじわと血糖を上げ続けます。
糖尿病患者さんが、焼肉、揚げ物などを食べすぎると、翌朝の血糖は間違いなく上がります。
結局、どの栄養素であっても、摂りすぎれば血糖値は上がる(上がるタイミングは違うけど)、ということですね。
「炭水化物を減らしているのに痩せません」の理由は?
「炭水化物を減らしているのに、やせない」
痩せるために必要な食事療法は「カロリー制限」です。
炭水化物を減らすことにより全体の摂取カロリーが減れば、もちろん体重は減る方向に向かいますが、炭水化物ばかりに目を向けすぎると落とし穴にはまります。
「米飯を食べていないから」と気が緩んで(おなかもすいて)、おかずの量が増えてしまったり、お菓子の量が増えてしまったりして、結局摂取カロリーはまったく減っていないということが、よく起こります。
「バランスよく食べましょう」、「栄養素のバランスを崩さずカロリー制限しましょう」というのは、使い古された言葉で、特に重要なメッセージもないように感じてしまいますが、実は最も効果的なダイエットおよび血糖管理の方法なのかもしれません。
炭水化物制限を成功させるためには?
①脳に悪影響を与えず、続けられる炭水化物の制限量を見つける。
脳が使う炭水化物量はどんなに少なく見積もっても1日100gは必要ですので、それより下回ることはないように注意が必要です。
これ以上減らすと、頭がぼーっとしたり、からだがしんどくなってしまいます。
ただし、おかずにも炭水化物は含まれています(1食で15~20gくらい)ので、主治医に相談してOKが出れば、ご飯などの主食は、もう少し減らしてもよいかもしれません。
②ご飯、パン、麺類以外の炭水化物にも目を向けること
③炭水化物を減らしても油が増えないように!(結局カロリーダウンになりません)
④糖尿病の薬やインスリン注射している人では、一緒に薬剤の調整も必要!!
薬やインスリンの量を変えずに、いきなり炭水化物を減らすと、低血糖で倒れてしまいます。
また、SGLT2阻害薬を服用している患者さんや1型糖尿病の患者さんでは、極端な炭水化物制限をすると、からだのなかのケトンが増えて致命的になる場合があります。
糖尿病患者さんは炭水化物制限をしてはいけない、ということはありませんが、まずはどれくらいまで安全に制限できるか主治医に相談してくださいね!
(※炭水化物と糖質は厳密には違いますが、減量を考えるうえでは大きな違いはありませんので、本記事ではほぼ同義として扱っています。)