なにかあったの?
「ノセボ効果」は、プラセボ効果と逆の現象をあらわす言葉
ノセボ効果(nosebo effect)は、逆偽薬効果ともいわれます。
似た言葉に「プラセボ効果」というものがあります。これは有効成分が入っていない薬剤を服用した際に、「薬を飲んでいるから効いているはず!」と思い込むことで、症状が改善する効果のことです。
「ノセボ効果」は逆に、服用した際に「薬を飲んでいるから副作用が起こるはず!」と思い込むことで、心配している症状が実際に出現してしまう効果のことです。
特に、初めてなんらかの薬剤が患者さんに処方された時に医師や薬剤師から副作用についての説明があり、その副作用の種類が、(たとえば)肩こりや頭痛など、一般に起こりやすい症状であれば、ノセボ効果が高くなってしまいそうですね。
スタチン内服により起こる筋症状のなかに、ノセボ効果が一部含まれているかもしれない
さて、コレステロールを下げる働きを持つ薬剤である「スタチン」のお話です。
スタチンにより心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを下げることが明らかになっていますので、必要な患者さんにおいては、ぜひ服用が望ましい薬剤です。
スタチンを内服することにより、筋肉痛や筋力の低下などが起こるという副作用であり、重篤なものとして、横紋筋融解症と四肢・体幹の筋力低下(ミオパチー)の2 つがあります。
このため、スタチン製剤が開始される際には、患者さんは、医師や薬剤師から筋症状が起こりうる、と説明を受けるわけですが、筋肉痛などの症状って、一般に(薬剤とは関係なく)起こりやすい症状ですよね。
ここで、ノセボ効果の問題が生じるとされています。
つまり、スタチンを開始した後に筋肉痛が出現した際に、その症状がスタチンの副作用でなかったとしても、(患者本人もしくは医師により)中止されてしまう問題です。
実は安全にスタチンを服用できるのに中止になってしまうと、患者さんの不利益になってしまいます。
スタチンが筋症状やその他の副作用(肝障害など)により服用できないことを「スタチン不耐症」といいますが、日本肝臓学会、日本神経学会、日本動脈硬化学会、日本薬物動態学会の専門家による「スタチン不耐診療指針作成ワーキンググループ」が作成した「スタチン不耐に関する診療指針2018」のなかには、このような記述があります。
さらに、この診療指針では、スタチンによる筋症状が生じたときのアプローチについてまとめてあります。
(もちろん、減量や他スタチンへの変更検討もオプションのひとつとなりますが)
StatinWISE研究
筋症状のためスタチンが中止された患者さんを対象として、スタチン服用と筋症状の関連を調べたn-of-1試験
この試験は、順序ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、n-of-1比較試験です。
対象は、スタチン服用後の筋症状のため中止した、または筋症状のため中止を考えている患者さん200名(中止した人:151人、中止を考えていた人:49人)です。
平均年齢は69歳で、70%に心血管疾患の既往がありました。
※ただし、服用後に肝機能(トランスアミナーゼ)が正常値の3倍以上に上昇、もしくは、CKが5倍以上に上昇したことがある人は除外されました。
この研究では、一人の被検者に対して、スタチンかプラセボか、どちらかの試験治療が6クール(1クールにつき2か月間)行われますが、その順序(シークエンス)もランダムに割り振られます。
被検者A(下図のシークエンス1):スタチン→プラセボ→スタチン→プラセボ→スタチン→プラセボ
被検者B(下図のシークエンス2):スタチン→プラセボ→スタチン→プラセボ→プラセボ→スタチン
この順番には2つだけ決まりが設けられています。ひとつは、最初の2クールのみ、スタチンとプラセボが交互になること、もうひとつは、同じ治療が3クール続かないこと、です。
被検者には、各期間(上図の1~6)で、各期間の筋症状(痛み、筋力低下、圧痛、固さ、こむら返り)についてVASスケールなどの質問紙に答えてもらい(結果はスコア化)、スタチン内服期間とプラセボ内服期間の筋症状スコアが比較されました。(→プライマリーアウトカム)
プラセボ期間とスタチン内服期間の筋症状スコアに差はなかった
151人が試験を完遂し、プラセボ期間と実薬(スタチン)期間の筋症状スコアに差はありませんでした。
すなわち、少なくともこの151人を対象とした試験では、今までに起こっていた筋症状は、実はスタチンとは関連なかった(かも)、という結果でした!
※※ちなみに脱落した49人の被検者については、プラセボ期間の脱落数とスタチン期間の脱落数に差がなかったということです。しかし、脱落した被検者のCKや筋症状の詳細については不明ですので、このなかにスタチンにより筋障害が起きた人が多く含まれていた可能性は否定できません。
また、スタチンによる筋障害は、用量依存性と考えられていますが、日本人では、欧米人のおよそ半分のスタチン投与量で同程度のLDL-C 低下が達成されると言われています(J Atheroscler Thromb. 2013;20:517-523)。
スタチンによる筋障害はあまりに有名ですが、筋症状が出現した場合も、副作用!とすぐに決めつけず、診断指針のチャートを参考に注意深く評価するほうがよさそうです。
※ただし、筋症状があって、CKが大幅に上昇している症例ではもちろん中止が必要です!
Herrett E, et al. Statin treatment and muscle symptoms: series of randomised, placebo controlled n-of-1 trials.BMJ372:n135,2021
スタチン不耐に関する診療指針2018 (日本動脈硬化学会-公式サイト- )
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