まさに今のGFR低下速度が、将来の腎予後を決める

HbA1cの値を見て、「昨年の同じ月は、どれくらいでしたっけ?」

と患者さんと振り返ることがありますが、

GFRの変化も気にしていますか?

通常、GFR(糸球体濾過量)は年1%ずつ低下する

GFRとは、なんでしょうか?

腎臓の老廃物を排泄する能力をあらわしています。

実際にGFRを算出するためには、極めてややこしい検査が必要になるので、概算値であるeGFRで判断されることが多いです。

大雑把にいうと、eGFRが大きいほど、老廃物の排泄能力が高い=腎機能がよい、ということになりますね。

これまた大雑把に言うと、60以上であれば腎機能はよし、45-59はちょっと悪め、30-44は結構悪い、30以下はかなり悪い、15未満は末期腎不全(透析が必要)という感じです。

ちなみに、eGFRは、年齢とともに少しずつ低下してきます。30歳頃を超えると、年に1%くらいのペースで低下すると言われています。

さて、皆さんのeGFRはいかがでしょうか?年1%の低下にとどまっていますか?

糖尿病腎症が進行すると、GFR低下が加速する

しかし、糖尿病腎症が進行すると、GFR低下速度が速くなってきます。

そして、そのスピードが速くなればなるほど、多くの場合はさらに加速して、末期腎不全(透析が必要となる状態)に至ってしまうのです。

(なお、一般には、蛋白尿が多く出ている患者さんの方が、GFR低下のスピードが速いことがわかっています。あくまで一般には。この話はまた今度)

Joslin Proteinuria Cohort study という(糖尿病の聖地的な!大学である)ジョスリン大学などの先生方による2012年にpublishされた論文があります。

腎機能が正常(GFR60以上)で、蛋白尿を有する1型糖尿病患者さんを対象として、7年間の腎機能の経過を追った研究です。

この論文の(おそらく)命題は、

「蛋白尿を有する糖尿病患者では、どれくらい、どのように、GFRは低下していくのか?」

「どれくらい」という問いに対しては、このようなデータでした。

ほとんどの患者さんでは、年4%以内の低下にとどまっていましたが、4%以上低下している患者さんもそれなりに多いですね(下図)。

「どのように」については、

エントリー早期に、速いスピードでeGFRが低下していた患者さんでは、(その低下スピードが緩やかになることなく)そのまま線形に低下し続けました。

そして、エントリー早期に、1年間で11%以上の低下、1年間で6.5%以上の低下を認めていた患者さんでは、5年以内にそれぞれ50%、18%が末期腎不全(透析が必要となる状態)に至ってしまいました。

将来の末期腎不全の予測因子として最も強い因子だったのが、HbA1cでもなく、蛋白尿の多さでもなく、早期の(今の)GFR低下速度だったという結果でした。

なんとも考えさせられる報告ですね。

まさに現在のGFR低下速度が、もうすでに将来の腎予後を決めている、ということですね。

すでに糖尿病腎症が進行している人でも、血糖管理は腎を守る

それでは、GFRが低下してきた患者さんは、もう打つ手がないのかというと、それは違います。

RAS系阻害薬(降圧薬の一種)は腎臓を守る確固としたエビデンスがあります。

血圧管理、塩分制限も確実に腎予後を改善させます。

それでは、血糖管理はいかがでしょうか?

もう蛋白尿が出現してしまっている患者さんには、あまり血糖管理しても腎機能の低下を食い止めることができないのでしょうか?

もうひとつのJoslin Proteinuria Cohort study

実は、もうひとつのJoslin Proteinuria Cohort studyが2014年にpublishされています。

蛋白尿を有する1型糖尿病患者さんにおいて、血糖コントロールを改善させれば、腎機能低下が抑えられるのか?

を明らかにすべく行われました。

登録時のHbA1cが9.3%と結構高めの、蛋白尿を有する腎機能正常の1型糖尿病患者さん(平均年齢38歳)を対象としています。

この研究では、HbA1c>9.5%をvery poor(すごくコントロール不良)8.0<HbA1c≦9.5%をpoor(コントロール不良)HbA1c≦8.0%をfair(コントロール良好)と分けているのですが、

登録時から5年くらいの間に、HbA1cが改善した人(very poor, poor→fair )、改善しなかった人(very poor, poor→very poor, poor )、もともと良好の人(fair→fair)のあいだで、腎予後(登録後15年間観察)を比較しています。

登録時から15年間の「末期腎不全に至った率(累積)」が縦軸です。

登録時から5年位以内に、緑ラインの「HbA1cが改善」した人たちでは、青ラインの「もともと良好」の人たちと同じリスクまで、ゆっくり下がっているのが分かります。

縦軸を、GFRに置き換えた下図でも、同じデータですね。

血糖を改善させることにより、腎機能低下のスピードを抑えられるという結果でした。

蛋白尿がすでに出現していても、今からの血糖管理で、将来を変えることができる可能性が十分ありますね。

さて、またまた前置きが長くなりました。

今回紹介したかったのは、

このように、急激にGFRが低下している患者さんに対して、SGLT2阻害薬も効果あり?という、日本人を対象とした興味深い論文のことでしたが、

長くなり過ぎたので、この続きは次回に…

さて、今日は皆さんのeGFR、見返してみてください。

The early decline in renal function in patients with type 1 diabetes and proteinuria predicts the risk of end-stage renal disease. Skupien J, et al. Kidney Int. 82:589-97,2012   

Improved Glycemic Control and Risk of ESRD in Patients with Type 1 Diabetes and Proteinuria. J Skupien et al. J Am Soc Nephrol. 25:2916-25, 2014 少し前ですが、どちらも超有名な報告です。

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