新しい超速効型インスリン、フィアスプとルムジェブの違いに迫る

新しい超速効型インスリンが使用できるようになっています!

超速効型インスリンとは、食事した時や、おやつを食べた時などに分泌される、追加インスリンを模倣して作られたインスリンですね。

超速効型インスリンは、いくつかのメーカーから製造販売されており、ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラの商品名で使用されています。

これらのインスリンは食直前注射が基本なのですが、食事の内容や、食べる速さ、消化の速さによっては、インスリンの効果発現が血糖上昇に追い付かないことが結構あります。

このため、CGMやFGMなどで血糖の推移を観察して、インスリンの効果発現が血糖上昇に追いついていなければ、一般的に推奨されている食直前注射ではなく、あえて5分前、10分前に注射して、血糖上昇のタイミングとインスリンの効果発現のタイミングを合わせる治療を行うことがあります。

1型糖尿病の患者さんでは、10~15分前に注射(注入)するのが食後血糖を上昇させないベストなタイミングだ、という研究結果もいくつかあります。

でも、(医者が)言うのは安し、(患者さんが)行うは難しです。

10分前になんか、注射して待ってられません!

カップラーメンの3分だってイライラするのに、食べる10分前に注射して、じーっと待つのは超イライラするでしょうし、その間に用事などしながら…と思うと、食べるタイミングが遅くなって低血糖になってしまうリスクも上がります。

待っている間に、電話がかかってきたり、急用を思い出したりすることだってあるかもしれません。

インスリンポンプについても同じ問題があります。

インスリンを注入する速度は、「普通」「急速」の2つのパターンから選べるのですが、急速に注入するパターンでも、インスリンの効果発現が血糖上昇に追いつかないことがよくあります。

さらに、「急速注入」にすると、一部の患者さんではポンプ閉塞が増えてしまったりもするんですよね…

新しい超速効型インスリンである、フィアスプと ルムジェブは、従来の超速効型インスリンの添加剤を変えただけの製剤

さて、

ごく最近、2種類の新しい速効型インスリンが日本でも使用できるようになっています。

インスリン製剤の添加剤を調整して、吸収を速くすることにより、現在の超速効型インスリンよりも速く効くように改良されています。

すなわち、インスリンの成分としては各社の従来製剤と同じであり、添加剤だけが変更されています。

ノボラピッドの添加剤を変更したインスリンが、フィアスプです。(fast-aspartで、フィアスプ)

ヒューマログの添加剤を変更したインスリンが、ルムジェブです。

新しい超速効型インスリンについて、我々が最も知りたいポイントを詳細に解析した論文がある

当然、生じる疑問は、

「どちらがより速いの?どちらがより良いの?」ですよね。

フィアスプにしても、ルムジェブにしても、大規模な海外臨床試験がいくつも報告されているのですが、まだ直接対決のデータはありません。

色々探していると、我々の疑問を解決してくれそうな論文に出会いました。

日本人1型糖尿病患者さんを対象として、各インスリンの作用動態を詳細に解析した論文です。

「フィアスプ」と「ノボラピッド(アスパルト)」を比較した論文です。

Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2018

「ルムジェブ」と「ヒューマログ(リスプロ)を比較した論文です。

Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2020

どちらも1型糖尿病患者を対象としたクロスオーバー比較試験であり、同じ研究チームによる報告です。

正常血糖クランプ法を用いて、新しいインスリンの血糖低下作用の速さ、強さを、従来の超速効型インスリンと比較しています。

下図は、皮下注射後の血糖低下作用の強さを表した図です。横軸が注射からの時間、縦軸が血糖低下作用の強さです。

実線がフィアスプ、点線がノボラピッド

赤線がルムジェブ、黒線がヒューマログ

どちらも、新しいインスリンの方が立ち上がりが早く、ピーク時の血糖降下作用が強いですね!

しかし、2つの図、形が全く違うのが気になります。

それもそのはず、両者の横軸の時間が全く異なります。上は2時間、下は7時間のデータです。

というわけで、上の2つの図の横軸を統一して、再度並べてみました。

ルムジェブの方がちょっと立ち上がりが早い…?

いえいえ、違う論文のデータを比較してはいけませんね💦

フィアスプはノボラピッドよりも、効果発現が5.3分早く、効果が最大になるまでの時間は18.6分早い。

まず、フィアスプの論文から見ていきます。

Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2018

上表の赤枠部分のみ抜き出してまとめてみました。

Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2018よりGajigaji dog作図

“Onset of action” は、インスリン皮下投与してから、血糖が0.3 mmol/L (≒5.4mg/dL)下がるまでの時間 (min) だと論文に記載してありました。

”tRmax” は、注射したインスリンの血糖低下作用が最大に達するまでの時間(min)です。

”Early 50% tRmax” は、”tRmaxの半分”ですので、このインスリンによる最大の血糖低下作用の50%の力を発揮するまでにかかった時間です。そこそこ効いてくるまでの時間、というイメージでしょうか?

従来のノボラピッドと比較して、5分も効果発現が早くなっていますし、

そこそこ効いてくるまでの時間、”Early 50% tRmax”は、ノボラピッドより10分早く、効果が最大になるまでの時間は19分も早いです。

ルムジェブはヒューマログよりも、効果発現が6.4分早く、効果が最大になるまでの時間は19.7分早い。

それでは、ルムジェブはいかがでしょうか?

Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2020

上表の赤枠部分のみ抜き出してまとめてみました。

Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2020よりGajigaji Dog作図

“Onset of action” は、論文によると、インスリン皮下投与してから、血糖が5.4mg/dL下がるまでの時間(min)だと論文に記載してありました。フィアスプの論文とほぼ同じ条件ですね。

ルムジェブでは、ヒューマログよりも6分程度、効果発現が早いですね。

”Early 50% tRmax”は、ヒューマログより11分早く、効果が最大になるまでの時間は19分も早いです。

ルムジェブとフィアスプの直接対決のデータはないが、どちらも従来の超速効型インスリンよりも、「早く効いて切れの良い」インスリンに進化している。

ルムジェブと、フィアスプのどちらが…という疑問に対しては、今後のデータを待つしかないのですが、どちらもかなり進化しているのは確かですね。

新しい超速効型インスリンにより、患者さんの血糖がさらに安定し、注射タイミングなどの負担が少しでも軽減されるとよいと思います。

ちなみに、添付文書上の注射タイミングは食事2分前(~食後20分までOK)です。

(注意:胃腸運動が低下している患者さんなどでは、効果発現が早いこれらのインスリンは、よい効果が期待できないだけでなく、むしろ低血糖のリスクが上がり危険です!患者さんによっては、使用しない方がよい場合があります。)

なお、この2種類の新しいインスリンはインスリンポンプにも使用できますので、ポンプユーザーのかたで、血糖が先に上がってしまうパターンでお困りの場合は、一度試してみるとよいかもしれません。

Fast-acting Insulin Aspart in Japanese Patients With Type 1 Diabetes: Faster Onset, Higher Early Exposure and Greater Early Glucose-Lowering Effect Relative to Insulin Aspart. Shiramoto M et al. J Diabetes Investig. 9:303-310 ,2018

Ultra-Rapid Lispro Results in Accelerated Insulin Lispro Absorption and Faster Early Insulin Action in Comparison With Humalog ® in Japanese Patients With Type 1 Diabetes. Shiramoto M et al. J Diabetes Investig. 11:672-680 ,2020

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