フィアスプ、ルムジェブ、ノボラピッド、ヒューマログの4剤4期クロスオーバー比較試験
オンライン版で、つい最近発表されたばかりの論文です。
ドイツの研究チームによるフィアスプとルムジェブの直接対決です。
ペン型インスリン治療中の1型糖尿病患者68人を対象とした、ランダム化盲検、4剤4期のクロスオーバー比較試験です。対照として12人の非糖尿病者も試験に参加しています。
この試験では、グルコースクランプ法ではなく、1型糖尿病患者に対して実際にインスリンを皮下注射して、薬剤の効果と血糖値の経時的な変化を比較検討しています。
研究デザインは下図のようになります。一見難しそうですが、簡単です。
4剤とは、①ルムジェブ(上図の赤:U) ➁フィアスプ(青:F) ③ヒューマログ(灰:H) ④ノボラピッド(綠:N)です。被検者はテストミールを食べ、同じ単位の超速効型インスリン①~④を1回ずつ注射して、データ収集が行われました。インスリンだけを変えて、同じことを4回行っているということですね。
上図の、Lead-inの時に、テストミールを食べてヒューマログを注射し、食前から食後5時間のあいだの血糖値が70から240 mg/dLに収まる、最適な注射単位を調べたのちに、各被験者ごとに最適な注射単位に統一して4剤の試験を行ったようです。被検者も大変です…
ルムジェブでは他の3剤と比較して、皮下注射後30分以内の効果が大きく、2時間以降の切れが良い。
さて、結果です。
まず、注射後のインスリン濃度の変化です。横軸が注射後の時間です。下図の赤線がルムジェブ(URLi)です。やはりルムジェブの立ち上がりはよいですね。
さらに、薬剤暴露量(exposure)で各薬剤の効果を比較しています。
注射後0~15分(AUC)、0~30分(AUC)では有意にルムジェブの暴露量(効果)が高く、注射後2~7時間(AUC)では有意にルムジェブの暴露量が低いという結果でした。
ざっくり説明すると、ルムジェブは他の3剤よりも、注射後30分までの立ち上がりが有意に早く、2時間以降の切れもよかったということですね。
下図は、実際の食後血糖値の変化です。
確かに、青線のフィアスプや、赤線のルムジェブでは、食後血糖の上昇がかなり抑えられていますね!
とくにルムジェブでは食後1時間の血糖上昇がよく抑えられている印象です。
食後2時間以内では、黒線の非糖尿病者と比べても遜色ない血糖推移になっています。
新世代の超速効型インスリンは、糖尿病治療の強力なサポーターになりそうです。
しかし、いくつか気を付けないといけない点があります。
まず、これは「テストミール」によるデータだということです。
テストミールの内容は以下のように説明されています。
”100g carbohydrates, 26 g protein, and 22 g fat (16 fl/oz liquid Ensure Plus, Abbott Laboratories, Abbott Park, USA) ” →700kcalくらいですね。
要は、これです。
エンシュアリキッド
恐ろしくカロリーが高く、かなりドロッとしていますが、一応液体なので吸収は早いです。通常の食事とはもちろん違いますね。
研修医時代、なぜか医局の冷蔵庫に大量に入っていて、夜中におなかがすくと飲んでいた思い出が…
とにかく、これはあくまでエンシュアのデータ、ということを知っておく必要がありますね。
新しい超速効型インスリンが、すべての患者さんに有用とは言えない。
さらに、実際の患者さんに対する、新しい超速効型インスリンの使用について考えてみます。
下図の1型糖尿病患者さんは、食後血糖が急峻に上がってしまうのですが、次の食前(赤の矢印)には低血糖寸前まで血糖が下がってしまうので、超速効型インスリンが増量できません。こういうパターンの方には、新しい超速効型インスリンの効果が期待できるかもしれません!
下図の1型糖尿病患者さんも似たパターンですね。朝食後の血糖上昇は急峻ですが、その後血糖が下がってしまいます。
一方、下図の1型糖尿病患者さんでは、食直前にインスリンを打っているにもかかわらず、食後のへこみが少しあります(青矢印)。
このようなパターンの方に新しい超速効型インスリンを使用すると、このへこみをさらに大きくしてしまうかもしれません。
効果が早いインスリンへの期待は高まりますが、それぞれの患者さんに合ったインスリンを見つけることが最も大切ですね。
インスリンポンプユーザーにおける、ルムジェブと従来の超速効型インスリンの違いについては、ぜひこちらのサイトをご覧ください。深く切り込んでいます。
Heise T st al. Ultra Rapid Lispro Lowers Postprandial Glucose and More Closely Matches Normal Physiological Glucose Response Compared to Other Rapid Insulin Analogs: A Phase 1 Randomized, Crossover Study. Diabetes Obes Metab. May 21,2020. doi: 10.1111/dom.14094. Online ahead of print. →ちなみにcorresponding authorは、イーライリリーです。
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