肥満のマネージメントにおける問題点
肥満や、肥満に伴う健康障害は、多くの国で深刻な問題になっていますね。
肥満への積極的な介入が重要ですが、正しい介入、治療が行われていない場合も多いことが指摘されています。
肥満患者の多くが、肥満であると正しく診断されていない。
肥満治療についての知識が乏しい医療者が多い、また専門医療機関へのアクセスも悪い。
という点も、肥満治療を難しくしています…
そこで、より良い肥満のマネジメントを目的として、米国で、ACTION study (Awareness, Care, and Treatment In Obesity maNagement)という研究が行われています。
この研究は、肥満治療における障壁を明らかにすること、より良い肥満治療、マネジメントの方法を探すこと、などを目的としたものです。
さて、前置きが長くなりましたが、本日の話題は…
ACTION-IO studyでは、患者と主治医の肥満治療に対する認識のズレが明らかになった。
ACTION-IO study(ACTION International Observation)は、先ほど紹介したACTION studyと同じ目的で行われている研究ですが、こちらは国際的な研究です。
「医療者(主治医など)」と肥満を有する「患者」の両者における、肥満:肥満治療に対する考えや意識を、質問紙を用いて調べた研究です。
研究に参加した地域は、オーストラリア、チリ、イスラエル、イタリア、日本、メキシコ、サウジアラビア、韓国、スペイン、アラブ首長国連邦、イギリスの11か国でした。
質問紙は、
①肥満や体重管理に対する意識・姿勢
➁減量に、真剣に取り組んだ回数
③医療者と患者が、肥満や体重管理について話し合った経験の有無
④肥満や体重管理について話し合わなかった理由
などで構成されており、患者も医療者もほぼ同じ質問に答えていきます。
①患者は、自身の肥満を、治療すべき疾患というよりもプライベートな問題だと捉えている。
肥満や体重管理に対する意識・姿勢における質問の一覧をご覧ください(下図)。
上段の赤のバーが患者、下段の緑のバーが医療者の答えであり、バーの長さが質問内容に対する同意の強さをあらわしています。
赤と緑のバーの長さが、大きく乖離している質問項目を赤枠で囲っています。
大きく乖離したのは、下の2つの項目でした。
患者は、「減量は、完全に私の責任で行うべきだ」と思っており、さらに「医療者は、私が減量を成功させられるよう努力すべきだ」とは全く思っていないという結果でした。
一方、医療者は、「減量は、完全に患者の責任で行うべきだ」とは思っておらず、「医療者は、患者が減量を成功させられるよう努力すべきだ」と思っているという結果でした。
肥満に対する認識のズレがありそうな結果ですね。
これの意味するところは…
患者は、自身の肥満を、治療すべき疾患というよりもプライベートな問題だと捉えている
ということでしょうか。
➁医療者は、肥満患者の多くが減量を試みたことがない、と考えている。
次に、患者さんには、これまでに減量に真剣に取り組んだ回数を、医療者には、一度でも真剣に減量に取り組んだことがある患者の割合を聞いています。
患者のうち81%は、真剣に減量に取り組んだことがあると回答したのに対して、医療者の多くは、真剣に取り組んだことがある患者は少ない(平均 30%)と回答しました。
医療者は、患者の多くは減量を試みたことはない、と考えています。
③体重管理について、主治医などの医療者と話し合っている肥満患者は極めて少ない。
なぜ、このような乖離が生まれるのでしょうか。
医療者と患者さんは肥満症や減量について話し合っていないのでしょうか?
これに対する答えが下図です。
左側のデータのように、約半数では、過去5年間のあいだ、主治医などの医療者と話し合ったことがないという衝撃の結果でした。
さらに、図の右側は、日本人を対象として行われたACTION-IO stydyの結果を示しています。日本人の肥満患者では、体重について主治医と話し合っている肥満患者はさらに少ない結果となっています。
④体重について話し合わない理由は、患者と医療者では全く異なる。
最後は、「なぜ肥満や体重管理について話し合わないのか?」という質問です。
これが非常に興味深い結果になっています。
患者側の理由の多くは、「体重管理は自分の責任で行うべきだから」「医療者が自分の肥満には興味がないから」というものでした。
但し、緑のバーを見ると、医療者は「体重管理は患者の責任で行うべき」とも「患者の肥満には興味がない」とも考えていないようです。
一方、医療者側の理由は、「患者が、減量に興味がないから、モチベーションが低いから、減量できないと考えているから」「肥満による健康上の問題がないから」「もっと他に話し合うべき重要なことがあるから」といったものでした。
但し、赤のバーを見ると、患者は、これらの点について医療者と異なる意見を持っているようです。
即ち、「減量に興味がない」「モチベーションが低い」「減量できない」とは考えておらず、「肥満による健康上の問題はない」とも考えていないことが見てとれます。
驚くほど大きな乖離が生じていますね。
減量治療における患者と医療者の意識のズレ、ギャップが、治療の障壁となっている可能性がありそうです。
まずは、肥満、肥満の治療について、患者さんがどう考えているか詳しく聞くことから始めていけるとよいですね。
Caterson ID, et al. Gaps to bridge: Misalignment between perception, reality and
actions in obesity. Diabetes Obes Metab. 21:1914-1924,2019
Iwabu M, et al. Perceptions, attitudes and barriers to obesity management: Japanese data from the ACTION-IO study. J Diabetes Investig. doi: 10.1111/jdi.13427. Online ahead of print.
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