自律神経障害のひとつに心血管性自律神経障害(CAN)がある
糖尿病神経障害には、大きく分けて末梢神経障害と自律神経障害がありますね。
末梢神経障害があると、足や手先の感覚が鈍くなったり、しびれたりする場合があります。
これはまだイメージしやすいのですが、自律神経障害があるとどんなことが起きるのでしょうか?
ちなみに、神経が長いほど障害を受けやすいので、長い神経である迷走神経(副交感神経)が先に障害を受けてしまいます。
迷走神経といえば、イメージとしてはからだを落ち着かせるほうの神経ですね。血圧を下げたり、脈拍を遅くしたり、消化を促進したりする働きがあります。
一般的に迷走神経(副交感神経)→交感神経の順に障害を受けるので、まず迷走神経がやられてしまうと脈拍がいったん早くなり、その後交感神経もやられてしまうと早くなった脈拍は戻ると言われています。
CANを調べる方法のひとつに心拍変動(CVR-R)の測定がある
自律神経障害のなかでも、心血管性自律神経障害(CAN:Cardiovascular autonomic neuropathy)がある糖尿病患者さんでは心血管系の病気(虚血性心疾患や不整脈など)などによる死亡率がかなり上がってしまうことが知られています。
CANがある患者さんでは、起立性低血圧や無痛性心筋梗塞、動悸などが出現することがありますが無症状の場合も多いです。
このため、糖尿病患者さんがCANを有しているか調べておくことは非常に重要です。
そうなんです、不整脈がある人では評価が難しいです。
心拍は完全に一定というわけではなく、呼吸や血圧の変化などにより絶えずコントロールされています。
たとえば血圧が下がるとからだは交感神経を活性化して心拍を上昇させます。
また、深く息を吸うことで胸腔内圧があがると、心臓に帰ってくる血が少なくなるので心拍は一時的に上昇します。
このように生体の恒常性を保つために、心拍(スピード)は私たちが気づかないレベルで細かく調節され、状況に応じて変化しているのです。
自律神経障害によりその調節ができなくなってしまうと心拍変動が消失します。このため心拍変動の程度(CVR-R)を調べて自律神経障害の有無を予測できるのですね。
CVR-R値の基準値は年齢により異なる
心電図をとり、心拍変動としてCVR-Rを算出します。
CVR-Rとは、R-R間隔(心電図のR波間の長さ)の変動係数(CV) をあらわしています。
しかしこの判定法でよいのか甚だ疑問です。
たとえば、実際に検査をしていて感じるのは、20歳で安静時CVR-R2.0はきっと異常だし(若い人の平均値はもっと高い)、70歳の人であれば2.0以下のほうが多いです。
自律神経機能も年齢とともに衰えると考えれば値が下がるのは納得がいきますが、「病的に低いかどうか?」が知りたいところですね。
この、年齢別のCVR-Rの正常値(平均値)って成書にも論文にもほとんど出てこないのですよね…
CANを有する糖尿病患者ではGFR低下速度が速くなる
日本人2型糖尿病患者さんを対象としてCANがある人とない人における腎症進行を比較した研究です。
対象患者さん831人をアルブミン尿なし(Normouroteinuria)、微量アルブミン尿あり(Microproteinuria)、顕性蛋白尿あり(Macroproteinuria)に分類し平均5.3年フォローアップしています。
プライマリーアウトカムはベースラインから40%以上のGFR低下です。
そしてこの研究では、CVR-R値によりCANの有無が診断されました。
対象者のうち14.2%がCAありと診断されました。
各群におけるカプランマイヤー解析が下図です。
心腎連関という言葉が最近よく聞かれますが、自律神経障害がある人では体液量、血圧などの変化に応じた調節がうまく行われず、腎臓が守られなくなるのですね…
CANの基準値についての報告
Agelinkさんという人が報告した年齢、性別による基準値をもとに判定されていました。
Agelinkさんはドイツの精神神経医でCANの専門家のようです。
下図がそのCVR-R基準値です。
年齢によりこうも違うのですね…
女性で低めなのはどうしてでしょうね?
……………………………………………………………………………………………………………………………………………
Decline in renal function associated with cardiovascular autonomic neuropathy positively coordinated with proteinuria in patients with type 2 diabetes. J Diabetes Investig. 2022.