セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)による減量治療:STEPシリーズ
肥満患者さんに対して、減量治療薬としてのセマグルチド皮下注の効果を調べたシリーズです。
日本では、セマグルチド(オゼンピック)は、2型糖尿病患者さんに対して使用されている薬剤ですね。日本で使用できる最大量は、週に1.0㎎です。
STEP1は、非糖尿病肥満者に対してセマグルチド2.4㎎/週を投与した試験(プラセボと対決)。
肥満(BMI30以上)もしくはBMI27以上で肥満に伴う合併症(高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患など)を有している成人1961人を対象とした試験です。非糖尿病者です。(二重盲検、多施設共同、プラセボ対照試験)
被検者のうち、約75%が白人、13%がアジア人、5%が黒人かアフリカ系アメリカ人であり、平均体重は105㎏でした。
セマグルチド2.4㎎/週を皮下注射する群(407人)と、プラセボ(偽薬)を皮下注射する群(204人)にランダムに分けられ、68週間の試験治療が行われました。
セマグルチド群では、初回は0.25㎎/週で開始され、以降4週間毎に、0.5㎎、1.0㎎、1.7㎎、16週後には最大量の2.4㎎まで増量され、その後68週まで2.4㎎が継続投与されました。
どちらの群の被験者においても、月に1回、食事と運動の指導が行われました。
体重減量率(プライマリーアウトカム)と、その推移(下図)をご紹介します。(副作用などで、セマグルチドが計画書通り増量できなかった被検者も含んだ結果です)
68週で、セマグルチド投与群では14.9%、プラセボでは2.4%の体重減少を認め(セマ vs プラセボで有意差あり)、セマグルチドの恐るべき体重減少効果が明らかになりました。68週にわたり減り続けていますね。
100㎏の人であれば、セマグルチド投与により、1年ちょっとで85㎏になったということですね。
STEP2は、肥満の2型糖尿病患者に対して、セマグルチド2.4㎎/週を投与した試験(プラセボと対決)。
今度は、BMI27以上の2型糖尿病患者さん1,210名を対象とした試験です。
被検者の平均体重は100㎏(BMI36)、HbA1c8.7%でした。アジア人は、被検者のうち26%くらいでした。
被検者は、セマグルチド2.4㎎/週の皮下注射を行う群(404人)、セマグルチド1.0㎎の群(403人)、プラセボ(偽薬)群(403人)にランダムに分けられ、この治療が68週間行われました。
STEP1と同様に、すべての被験者において、月に1回、食事と運動の指導が行われました。
68週で、セマグルチド2.4mg 投与群では9.6%、セマグルチド1.0mg 投与群では7.0%、プラセボでは3.4%の体重減少を認め、セマグルチド2.4㎎ vs 1.0㎎、セマグルチド2.4㎎ vs プラセボで有意差を認めました。
一方、興味深いことに、
HbA1c(セカンダリーアウトカム)の変化については…
HbA1cの低下効果については、セマグルチド1.0㎎と2.4㎎では、有意差を認めませんでした。
すなわち、肥満2型糖尿病患者さんの体重をより多く減少させるために、セマグルチドを2.4㎎まで増量する意義はあるけれど、血糖コントロールについては、1.0㎎でも十分な効果があるということですね。
STEP3は、非糖尿病肥満者に対して、セマグルチド注射+生活習慣への集中介入を行った試験。
肥満(BMI30以上)もしくはBMI27以上で肥満に伴う合併症(高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患など)を有している成人611名に対して行われました。
このトライアルにおいて、被検者は1日1000~1200kcaLの食事が8週間提供されたあと、1200~1800kcaLのカロリー制限を行うよう指導されました。
さらに、100分/週の運動を始め、その後、200分/週になるまで、徐々に運動時間を伸ばす(1か月毎に25分/週ずつ)ように指導されました。
また、食事内容、運動時間が毎週聴取され、認知行動療法も行われました。
セマグルチド投与群では16.0%、プラセボでは5.7%の体重減少を認めました。(セマ vs プラセボで有意差あり)
生活習慣改善のためのサポートがあると、セマグルチドの効果はさらに強くなるのですね。
STEP4:セマグルチドをやめたら、減った体重はどうなるか?
肥満(BMI30以上)もしくはBMI27以上で肥満に伴う合併症(高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患など)を有している成人902名に対して行われた試験です。
まず、セマグルチドが以下のスケジュールで開始、増量され、20週までに2.4㎎まで予定通り増量された803名において、20週の時点で、セマグルチド継続群とプラセボへの変更群(セマグルチド中止)にランダムに分けられました。
(セマグルチドの開始・増量スケジュール:初回は0.25㎎/週、以降4週間毎に、0.5㎎、1.0㎎、1.7㎎、16週後には最大量の2.4㎎まで増量され、その後20週まで2.4㎎継続投与)
このトライアルにおいても、STEP1と同様の内容で、月に1回、食事と運動の指導が行われました。
体重変化については…
継続群と中止群に分けられた20週を起点として、継続群ではさらに7.9%体重が減少しましたが、中止群では6.9%の体重増加を認めました。
この論文では、「セマグルチドを継続的に使用することで、効果的かつ安全に体重コントロールが行える」と結論付けられていますが、むしろ気になるのは、中止群のデータですね。
この結果を、どのように解釈して、肥満治療に取り組めばよいかは大変難しいですね。
例えば、糖尿病患者さんに対して、糖尿病薬を開始して血糖値が低下したとしても、そのまま薬剤を継続する場合があります。患者さんが食事療法や運動療法に真剣に取り組んでいても、糖尿病の病態によっては、薬をやめてしまうと、また血糖値が上がってしまうことが少なからずあるからです。
日本でも、肥満症に対する薬物療法が標準的治療として行われる時代が来れば、肥満症についても、同様の考え方に変わっていくのでしょうか?
肥満症治療については、痩せる前だけでなく、瘦せた後の体重管理が非常に難しく、かつ重要ですね。
※本日ご紹介したSTEP試験は海外における研究ですので、わが国におけるセマグルチド(オゼンピック)の適応疾患や使用可能な用量は異なります。日本において、セマグルチドは2型糖尿病に対してのみ使用できる薬剤です。さらに最大投与量は1.0㎎ですのでご注意ください。
Wilding JPH, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. N Eng J Med.18;384:989,2021
Davies M, et al. Semaglutide 2·4 mg once a week in adults with overweight or obesity, and type 2 diabetes (STEP 2): a randomised, double blind, double-dummy, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet 2021; 397: 971–84
Wadden TA et al. Effect of Subcutaneous Semaglutide vs Placebo as an Adjunct to Intensive Behavioral Therapy on Body Weight in Adults With Overweight or Obesity. The STEP 3 Randomized Clinical Trial. JAMA 24,2021
Rubino D et al. Effect of Continued Weekly Subcutaneous Semaglutide vs Placebo on Weight Loss Maintenance in Adults With Overweight or Obesity. The STEP 4 Randomized Clinical Trial. JAMA23,2021
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