




今日は糖毒性(glucotoxicity)に関する論文を見つけました!




糖毒性とは高血糖によるβ細胞の機能低下であり適切な治療により回復する可能性がある
慢性的な高血糖により血糖管理がさらに困難になる「糖毒性」の概念は比較的イメージしやすいですね。
例えば高血糖が続いている患者さんの治療を行っていてもしばらく血糖値が下がらない状態が続いたのち、ある時を境に急激に血糖値が下がり始めることを経験します。
この時に「ああ糖毒性が解除されたな」と感じます。
しかし個々の患者さんの治療効果には差がありますので、治療への反応が悪い場合にそれが糖毒性によるものか知ることは困難です。


1️⃣ 空腹時血糖値に「糖毒性が解除される閾値」があるのか?
2️⃣ その閾値を超えるとインスリン治療においてβ細胞機能の回復が加速するのか?
3️⃣ その閾値を超えると血糖値の改善も加速するのか?

短期集中インスリン療法によるβ細胞機能回復、糖毒性解除のタイミングを検証した試験
これは2023年にカナダで行われた短期集中インスリン療法(IIT:intensive insulin therapy)のβ細胞機能に対する効果を調べたランダム化比較研究の二次解析です。
発症後5年以内の2型糖尿病患者さん108名を対象として空腹時血糖72~108mg/dL、食後2時間血糖 <144mg/dLを目標とした3週間のIITを行いました。
IITの前後で経口血糖負荷試験(OGTT)を行い血糖値およびβ細胞機能の指標を評価しました。
<結果1>β細胞機能指標(ISSI-2)の改善はベースラインの空腹時血糖167mg/dLを境に加速した






ISSI-2 の改善率は、治療前の空腹時血糖が167mg/dL未満であった群では35%であったのに対し、167mg/dL以上の群では96%と約3倍の改善率を認めました。
<結果2>治療前後の血糖値の改善もベースラインの空腹時血糖167mg/dLを境に加速した
ではベースライン(IIT前)の空腹時血糖とOGTTによる負荷前血糖値、負荷後2時間血糖値のITT前後の変化量との関係を示した図を見てみましょう。
負荷前血糖値、負荷後2時間血糖値も治療前の空腹時血糖値167mg/dLを境にIITによる血糖改善効果が加速しました。



結論:糖毒性が解除されるボーダーラインの血糖値は?



このデータが示唆することについて、以下のような考察がされていました。
① 糖尿病治療ストラテジーに活用できる可能性
✲空腹時血糖167mg/dL以上の患者は短期集中インスリン療法(IIT)を積極的に検討すべきかもしれない
✲早期に糖毒性を解除すれば、β細胞の機能回復が期待できる可能性
②臨床試験での治療効果評価に有用
✲治療前の空腹時血糖167mg/dL以上の患者は「治療反応が大きくなるグループ」と考えられる
✲治療の個人差を説明する一つの要因になるかもしれない

僕の出番が減るじゃないか!(いや、減るのは先生か?)


—————————————————————————–
A Glycemic Threshold Above Which the Improvement of β-Cell Function and Glycemia in Response to Insulin Therapy Is Amplified in Early Type 2 Diabetes: The Reversal of Glucotoxicity. Diabetes Care. 2024 Nov 1;47(11):2017-2023.