メトホルミン内服患者では、PET検査で腸管にFDG(ブドウ糖類似物質)が高集積する。
PET検査をご存知でしょうか。
一般に癌の診断や広がりを見るために行われる検査ですね。
このPET検査では、癌細胞が正常組織よりもたくさんのブドウ糖を取り込む性質を持っていることを利用しています。
すなわち、ブドウ糖に類似した「FDG」と呼ばれる物質を体内に投与して、そのFDGが多く集まる部位を調べて癌を同定するのです。
さて、下図はメトホルミンを内服している2型糖尿病患者さんにPET検査を行った報告です。
このように、メトホルミンを飲んでいる患者さんでは、PET検査で腸管にFDGが集積してしまうということは、以前より一部の放射線科医のあいだでは知られていたようです。
この疑問に答えるべく行われた研究をご紹介します。
PET-MRI検査を用いて、メトホルミン内服者の腸管の各部位でのFDG集積を検討。
PET-MRI検査は、PET-CT検査で生じる融合画像のずれがなく精度が高い画像が得られる。
この研究では、PET-CTでなく、PET-MRIを用いて糖と同じ動きをするFDGの集積部位について細かく調べています。
PET-CTは、CT検査を行ったのちにPET検査を行い、画像を重ね合わせて評価するのですが、体動や腸管の蠕動運動などにより、撮影時間の少しの差により、融合画像にずれが生じてしまいます。
一方、PET-MRIでは、PETとMRI検査を同時に行うため、ずれが生じやすい腸管なども正しく評価することができます。ただし日本でPET-MRIが受けられる施設は大変限られています。
本研究では、PET-MRIが行われた244人の患者さんのうち、24人のメトホルミン内服患者さんと、年齢や性別、BMI、HbA1cをマッチさせた対象患者24人を対象として、FDGの腸管への集積の差を比較しました。
メトホルミン内服群では非内服群と比較して、回腸以遠のFDG集積が亢進していた。
メトホルミン内服群では、FDG集積(SUVmax)が、回腸から大きくなっていることがわかります。放射線科2人によるVisual Scaleでも同じ結果でした。
メトホルミン内服群では、回腸以遠の腸管内腔で、FDG集積が増加していた。
メトホルミンの作用により、糖が腸管内腔に排泄される可能性がはじめて報告されたのです。
SGLT2阻害薬は尿中に糖を排泄しますが、メトホルミンは便中に糖を排泄するとすると、糖の流れは、今まで考えられていたよりもさらに複雑なものになりますね。
(ただし、減量効果との関連はそこまで強くないかもしれません)
腸内細菌への影響も興味あるところです。
さらなる研究成果が楽しみですね!
Morita Y, Nogami M, Sakaguchi K, Okada Y, Hirota Y, Sugawara K, Tamori Y, Zeng F, Murakami T, Ogawa W. Enhanced Release of Glucose Into the Intraluminal Space of the Intestine Associated With Metformin Treatment as Revealed by [ 18 F]Fluorodeoxyglucose PET-MRI. Diabetes Care. 43:1796-1802,2020
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