幹細胞から生まれる新しい膵島移植 ~1型糖尿病のインスリン離脱を目指して~

ガジガジDr.
ガジガジDr.
こんにちは!スゴイ論文をまた見つけてしまいました!幹細胞から分化させた膵島細胞に関する研究です!

幹細胞から、ということはES細胞とかiPS細胞から作られたってこと?
まる
まる

モッさん
モッさん
ES?iPS?なんだそれ…

今日は眠くなる予感しかないわ…

エーアイDr.
エーアイDr.
”モッさん”さん、

ES細胞やiPS細胞は聞き慣れない言葉かもしれませんが、私がなるべくわかりやすく解説しますね♪

ガジガジDr.
ガジガジDr.
エーアイ君、そんな甘やかしたらだめですよ!モッさんはまず自分で勉強して、それから…
先生のキャラはもう時代遅れなんだよ。もう犬小屋に帰ってヨシ!
モッさん
モッさん

エーアイDr.
エーアイDr.
では”モッさん”さん、”ES”細胞と”iPS”細胞の違いをご存じですか?

簡単だよ。

2と3だね

モッさん
モッさん

ガジガジDr.
ガジガジDr.
2と3?(なんだろう…?)

ふざけてるんですか?

ES細胞は、胚盤胞由来の幹細胞のこと、
iPS細胞は、体細胞に遺伝子を導入して人工的に多能性を獲得させた幹細胞のことですね。

エーアイDr.
エーアイDr.
モッさん、さんもガジガジ先生も正解です。

たしかに”ES”は2文字、”iPS”は3文字ですね♪

ガジガジDr.
ガジガジDr.
私をモッさんと同列に扱わないでください!

研究デザイン~低血糖が多く無自覚低血糖を有する1型糖尿病の人に対する完全分化膵島移植~

無自覚低血糖、重症低血糖が多い1型糖尿病を持つ人に幹細胞由来の完全分化膵島(zimislecel)を注入して、その効果と安全性を検証した第1、2相臨床試験です。(VX-880-101 FORWARD試験 )

第1相試験ではまず目標用量の半分量のzimislecelを2人の被検者に注入して安全性を確認、その後目標用量のzimislecelを3人の被検者に注入して安全性と有効性が評価されました。

次に第2相試験では12人の被検者に対して以下の介入が行われました。

エーアイDr.
エーアイDr.
それでは下に第2相試験の概要をまとめますね♪

対象:無自覚低血糖あり、かつ過去1年に重症低血糖2回以上、かつ罹病期間5年以上の1型糖尿病(18–65歳)

方法:zimislecel(幹細胞由来の完全分化膵島)を門脈内にカテーテルで1回注入(0.8×10⁹個)

免疫抑制剤:プレドニゾロンを含まないレジメン(タクロリムス+ミコフェノール酸モフェチル)

評価項目

主要評価項目:day 90–365の重症低血糖ゼロ+HbA1c <7% or 1%以上低下

副次評価項目:Cペプチド産生(4時間混合食試験)、インスリン離脱率、安全性


ちなみにES細胞ってどこから来たの?
モッさん
モッさん

エーアイDr.
エーアイDr.
鋭い質問ですね!
製造記録管理(GMP準拠)を満たしたES細胞株を提供している幹細胞バンクが世界にいくつかあり、これらのバンクから提供されたES細胞株を臨床試験に使用できるのです。 この試験では米国の幹細胞バンクから提供されたES細胞株をVertex社が膵島細胞に分化誘導(※)して使用しています。

※具体的には、胎児発生過程を模倣した化学シグナルを段階的に切り替えES細胞を膵島細胞に誘導します。その後、FACSを用いて膵内分泌マーカー陽性細胞を選択、未分化マーカー陽性細胞を除去したのちに最終の品質チェックを行いzimislecelが完成します。

ふーん、細胞のバンクがあるんだね
モッさん
モッさん

ES細胞は胚細胞から作られるのか…。倫理面の問題はないの?
まる
まる

エーアイDr.
エーアイDr.
それも極めて重要なご質問ですね!
まるさんのおっしゃる通り、受精卵(胚盤胞)を採取してES細胞が作成されます。
不妊治療(体外受精)で生じた余剰胚のうち、着床予定がないもので提供者の同意があり、さらに倫理委員会の承認を得た場合に採取されます。

ただしES細胞株は自己複製能を持つため分化させずに適切に培養すれば1回の胚盤胞からES細胞株を量産することが可能です。

このため採取された胚細胞は長年にわたり大切に使用されています。

ガジガジDr.
ガジガジDr.
次は結果です♪

結果:分化膵島移植(zimislecel注入)により被検者の80%以上でインスリン離脱、全例で重症低血糖消失

エーアイDr.
エーアイDr.
まず、移植膵島の生着について見ていきましょう!

下図は混合食負荷による平均血糖値とインスリン分泌能の変化を示したグラフです。

移植後徐々にインスリン分泌が増加し移植膵島が生着していることがわかります。

 

 

エーアイDr.
エーアイDr.
すべての被検者においてCペプチドの陽性化を認めました!
じゃあ、インスリンがいらなくなる人もいたのかな?
モッさん
モッさん
エーアイDr.
エーアイDr.
そこが気になるところですよね!
では、下の図をご覧ください。

各被検者のHbA1cとインスリン投与量の変化が示されています。

 

 

ええと… 移植後6~7カ月経つと、ほとんどの人でインスリン投与量がゼロになっているね。1年後にインスリンが必要だったのはたった2人?
まる
まる
エーアイDr.
エーアイDr.
おっしゃるとおりです!
ガジガジDr.
ガジガジDr.
さらに移植前後のTime in Rangeが下図です。

 

 

えっと…移植後1年では、TIR90%以上になってる?
低血糖(TBR)もほとんどない!
モッさん
モッさん
ガジガジDr.
ガジガジDr.
TIR90%以上ということは
もう正常血糖ですね!

 

zimislecel投与後の観察期間(1年間)におけるアウトカムのまとめ
  • Cペプチド陽性化(生着):全例

  • HbA1c <7%:全例(平均1.8%改善)

  • 重症低血糖:0件(Day90–365)

  • TIR >70%:全例(平均93.3%)

  • インスリン離脱:10人(83%)

エーアイDr.
エーアイDr.
すべての参加者において重症低血糖が消失、さらに12人中10人がインスリン離脱できました。

画期的な研究だね!
まる
まる

ガジガジDr.
ガジガジDr.
素晴らしいですよね!

盛り上がっているところ悪いけど

注入された膵島細胞はどこに行ったの?

モッさん
モッさん

モッさん、さん、よいところに気づかれました!

門脈から注入された膵島細胞は肝臓に入って、類洞に“ひっかかる”ように分布します。その部分で血管新生が起こり生着するようです。

エーアイDr.
エーアイDr.

zimislecelの安全性とリスク

安全性についても調べられました。

エーアイDr.
エーアイDr.

まる
まる
幹細胞ってteratoma(奇形種)発症のリスクが心配だけど…?

まるさんのご指摘のとおりその点は注意が必要ですね。しかし、今回開発されたzimislecelは、完全分化誘導を行っていること、FACSにより未分化細胞を除去していること、誘導性キルスイッチが内蔵されているという三重の対策が行われており少なくとも現在までは奇形種の発症はないようです。
エーアイDr.
エーアイDr.

🆚 同種膵島移植との違い

エーアイDr.
エーアイDr.
さて、以前から行われている同種膵島移植と幹細胞由来の膵島移植との違いをまとめてみました。

 

従来の同種膵島移植 Zimislecel(VX-880)
細胞供給 ドナーに依存 幹細胞より量産可能
移植回数 複数回必要なこともある 単回で効果あり
品質 ドナーごとにバラつきがある 一貫した品質
インスリン離脱率 50%前後  80%以上
免疫抑制剤 必須(Tac+MMF) 現時点では必須

ガジガジDr.
ガジガジDr.
1型糖尿病の根治療法としての期待が高まる画期的な研究ですね!

エーアイ君、今日は勉強になったよ!
モッさん
モッさん
エーアイDr.
エーアイDr.
そう言っていただけて私も嬉しいです!

ガジガジDr.
ガジガジDr.
私の出番少なかった…泣(私が見つけた論文なのに…)

この画期的な治療の長期的な効果と安全性が確かめられ、近い将来、診療で選択肢のひとつとして活用できる日が訪れることを期待します。


Reichman TW, Markmann JF, Odorico J, Witkowski P, Fung JJ, Wijkstrom M, Kandeel F, de Koning EJP, Peters AL, Mathieu C, Kean LS, Bruinsma BG, Wang C, Mascia M, Sanna B, Marigowda G, Pagliuca F, Melton D, Ricordi C, Rickels MR; VX-880-101 FORWARD Study Group. Stem Cell-Derived, Fully Differentiated Islets for Type 1 Diabetes.N Engl J Med. 2025 Jun 20. doi: 10.1056/NEJMoa2506549. Online ahead of print. 

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