








「HbA1cは〇%だから平均血糖は△mg/dLです!」…ってホントに正しい?
臨床の現場でよくあるこの会話。
医師「HbA1cが7.0%ですね。平均血糖は…えーと、だいたい154 mg/dLくらいです」
患者さん「でも先生、CGMの平均血糖値は130って出てますけど?」
医師「えっ? うーん…」
患者さん「それにCGMの推定HbA1cは6.4なのに血液検査のHbA1cは7.0%でどっちを信じたらいいのかわかりません!」
医師「うーん…」
このようなHbA1cとCGM(持続血糖モニタリング)の“乖離”、皆さんも経験ありませんか?
今日ご紹介する論文は「HbA1cとCGMはなぜズレるのか?」という実臨床でのモヤっとした疑問に科学的にメスを入れた研究です!
研究の概要
◆HbA1cとCGM(持続血糖測定)による平均血糖推定値のズレに焦点を当てた研究◆
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対象:マサチューセッツ総合病院の成人糖尿病患者315名(86%が1型糖尿病)
- デザイン:後ろ向きコホート(観察研究)
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データ 90日分のCGMデータ(Dexcom G5/G6)とその直後のHbA1c値を抽出(データ欠損10%未満に限定)
- 解析用のCGMデータは90日間のうち最終の14日間を抽出
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分析:CGMデータとHbA1cのそれぞれから「推定平均血糖(eAG)」を算出して、 真の平均血糖とのズレを評価 ※真の平均血糖は、90日分のCGMデータより算出
※HbA1cから算出される平均血糖eAGA1c (mg/dL)の計算式:eAGA1c ≒28.7×HbA1c−46.7
結果:どれだけズレるのか?
推定法 | 真の平均血糖との誤差(95%パーセンタイル) |
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HbA1cによる推定平均血糖(eAGA1c) | 12 mg/dL(29 mg/dL) |
14日CGMによる推定平均血糖(eAGCGM) | 14 mg/dL(34 mg/dL) |
両者の平均 | 10 mg/dL(26 mg/dL) |




HbA1cから推定される平均血糖は、真の平均血糖値と比べて平均12mg/dLぐらいずれていたけど、全体の5%の人では29mg/dLを超えるずれがあった、ということですね(逆に95%の人は、誤差が29mg/dL以内に収まっていた)。



HbA1cによる推定値とCGMによる推定値の平均を取ると誤差が10mg/dL(95%タイルでは26mg/dL)まで小さくなっていますね。
ずれが大きくなってしまうのはどんな人なんだろう?

HbA1cのズレの正体は「赤血球寿命(MRBC)」
HbA1cが真の平均血糖を反映しない最も大きな要因は赤血球寿命の個体差です。
HbA1c(ヘモグロビンA1c)は赤血球内のヘモグロビンにグルコースが非酵素的に結合したものであり、赤血球は約120日間体内を循環し続けるためHbA1cは過去1~2か月の平均血糖値を反映するとされています。
従ってHbA1cの値は赤血球寿命(MRBC:平均的な赤血球1個が生存している日数)に強い影響を受けるのです。
しかもMRBCは通常約100~120日ですが個人差があり±15〜20%程度もの変動があると報告されています。
赤血球寿命が長ければHbA1cは高くなる 赤血球寿命が短ければHbA1cは低くなる んだよね

どうして?



下の図は、過去の有名な研究(ADAG研究など)からHbA1cと平均血糖の関係をまとめた図です


右図の近い場所を見ると…

同じ平均血糖でもHbA1cが±1%以上ズレることがある!

CGMのずれは「装着期間」と「装着時期」などが要因となる
この研究では90日間CGMデータのうち最後の14日間を抽出して分析に使用しているのですが、
装着期間(装着期間が長いほどずれは小さくなる)、装着時期、センサの精度、欠損値によりずれが生じうるとのことでした。
まとめ
☆HbA1cは便利な指標であるが、絶対に正しいわけではなく赤血球寿命などの要因により結構大きなずれが生じる
☆HbA1cとCGMなどの情報を総合的に判断して治療方針を決定することが重要!



Estimating Glycemia From HbA1c and CGM: Analysis of Accuracy and Sources of Discrepancy. Diabetes Care. 2024 Mar 1;47(3):460-466.