もうすぐ点鼻グルカゴン薬が我が国でも使用できるようになります。
今まで低血糖のリスクがある糖尿病患者さんには、低血糖昏睡時に投与する薬剤としてグルカゴン注射液を処方していました。
もちろん低血糖昏睡に陥っていたら、本人が対処することができないため、同居の家族などが、患者さんの異変(低血糖)に気づいたときに使用するための製剤です。
しかし、このグルカゴン注射液、アナフィラキシーショック時の自己注射薬のような、一般の人でも簡便に使用できるようなプレフィルド製剤がありません。
使用の際には、グルカゴンの粉が入った小瓶に、注射器で溶解液を入れて、瓶の中の粉を溶かし、それを注射器で吸い上げ、患者さんに筋注しないといけないのです。医療者でなければ大変難しく感じると思います。
このため、患者さんの家族には、もしもの時のために使用方法を説明していますが、低血糖昏睡は滅多にないことですから、いざという時には使用方法を忘れてしまっていたり、患者さんの状態を見てパニックになり注射できなかった、ということも少なからずあります。
針のキャップを取りさえすればすぐに注射できる製剤はいつできるのか、、と以前から思っていましたが、それよりも早く、グルカゴンの点鼻薬が使用できるようになりそうです。
「バクスミー」という名前の点鼻薬です。
点鼻薬で対処できるのは大変喜ばしいことですが、筋注の製剤と比べて、低血糖から回復させる効果が劣らないか?が最も気になるところですね…
グルカゴン筋注薬と点鼻薬の効果を比較した報告が、2020年にpublishされていました。
日本人の1型糖尿病患者と2型糖尿病患者、合わせて75名を対象としたランダム化クロスオーバー第3相比較試験です(非盲検)。
血糖モニターを行いながら、速効型インスリンを2 mU/kg体重/minの速さで被検者に静注して、血糖値が60mg/dL未満まで低下したところでインスリン注入を中止します。その5分後にグルカゴン1㎎筋注もしくはグルカゴン3㎎点鼻を行い、低血糖からの回復率を比較しました。
この報告における「低血糖からの回復」とは、「30分以内に血糖が70mg/dL以上になる、もしくは20㎎/dL上昇した場合」と定義されました。
結果は、グルカゴン点鼻と筋注では同等の回復率でした(両群とも100%)。点鼻でも遜色ない効果が得られたということですね!
ちなみに、低血糖から回復するまでにかかった時間は、グルカゴン筋注で平均11分、点鼻で12分でした。
下図は、グルカゴン点鼻または筋注後の血中グルカゴン濃度の推移です。点鼻ではかなり濃度が上がっていますね。
さらに下図は、グルカゴン点鼻または筋注後の血糖上昇の推移です。点鼻薬のピークは60分にであるのに対して、筋注のピークは90分ともう少し長く効くようですね。
但し、治療開始後30分以内の血糖上昇は両群で同等でした(黄色枠)。どちらも効果発現が早いです!
気になる副作用ですが、点鼻薬で多かったのはやはり鼻痛(8.5%)、筋注で多かったのは嘔気(11%)でしたが、重篤な副作用は両群ともなかったようです。
点鼻薬なら、低血糖昏睡時の家族によるグルカゴン投与のハードルがぐっと下がりますし、即座に投与できますね!
本当に首を長くして待っていた治療薬です。
Nasal glucagon as a viable alternative for treating insulin-induced hypoglycaemia in Japanese patients with type 1 or type 2 diabetes: A phase 3 randomized crossover study. Diabetes Obes Metab. 22:1167-1175, 2020
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