さわってもわからないインスリンボールがある!?

毎回同じ単位で、または同じ糖質インスリン比でインスリン注射をしているにも関わらず、血糖が乱高下してしまうことはありませんか?

予想外に上がったり下がったりする血糖は、患者さんにとって最も不安かつストレスフルなことではないでしょうか。

血糖が乱高下する原因の一つには、注射部位のトラブルがあります。

同一部位に繰り返し注射をすることで、注射部位の皮下に変化が起こり、血糖値の乱高下を引き起こす原因となることが分かっています。

血糖が乱高下する他の要因については、こちらの記事をお読みください。

 
Gajigaji dog
注射している場所がどうなるの?
 
gajigaji Dr.
このような変化が起きると言われています

①リポハイパートロフィー

インスリン治療中の1型糖尿病患者さんの30~50%に起こりうる。

ひとつめは、リポハイパートロフィーです。注射部位の脂肪が肥大してしまいます。

1型糖尿病患者さんのうち、なんと30~50%でリポハイパートロフィ―を認めていると言われています。もちろんインスリン治療中の2型糖尿病患者さんでも比較的高率に起こります。

注射部位の皮下脂肪が肥大して、やや弾力のある柔らかい腫瘤として触れます。外から見て、その場所がボコッと盛り上がっている場合もあります。

リポハイパートロフィ―の部分に注射するとインスリンの吸収が少し悪くなるが、血糖コントロールへの影響はそれほど大きくない。

1型糖尿病患者さん9人に対して、リポハイパートロフィ―の場所と、それ以外の場所にインスリン(ノボラピッド)を注射して、血中のインスリン濃度や血糖値の変化を見たスウェーデンの研究があります。

リポハイパートロフィ―の場所に注射した場合は、注射後に上がるべきインスリン濃度が25%くらい低下しており、吸収が落ちていることがわかりました(下図)。

しかし、血糖値には特に影響しなかったそうです。

リポハイパートロフィ―へのインスリン注射により、インスリンの吸収が低下および安定せず、血糖変動が大きくなったり血糖コントロールが悪化する可能性がありますが、後述のインスリンボールと比較すると、血糖値への影響はそこまで大きくないようです。

➁アミロイドーシス

別名インスリンボール。注射部位にボールのように固い腫瘤を触れる。

2つめは、アミロイドーシスです。

皮下注射部位にアミロイドが作られて、沈着してしまうのです。

 
Gajigaji Dr.
ボールのように固い皮下腫瘤を触れるため、インスリンボールとも呼ばれています。
 
Gajigaji Dog
アミロイドってなに?
 
Gajigaji Dr.
繊維状の異常タンパク質のことです。
本来、タンパク質は可溶性ですが、この異常タンパク質は水に溶けないため、組織に沈着して色々な病気を引き起こすのです。それが皮下に形成されてしまうのですね。
 
Gajigaji Dog
何から作られるの?
 
Gajigaji Dr.
注射したインスリンから作られるようです。
原因はよくわかっていませんが、インスリン分解酵素が、なにかのきっかけでうまく働かず、分解されそこなって沈着してしまうのかも、と考えられています。

インスリンボールに注射すると、注射したインスリンの吸収が極めて悪くなり、血糖値が上昇する。

インスリンボール(アミロイド沈着部位)にインスリン注射をすると、吸収が非常に悪くなるため、血糖コントロールが悪くなることがわかっています。

インスリンボールの場所を避けて注射したら、インスリン必要量が半分以下になった、ということも結構あります。

また、インスリンボールへの注射は痛みがなので、患者さんはついついその場所に注射してしまうという悪循環もあります。

インスリン治療を始めてから4~10年程度で発症しうると考えられています。

インスリンボールは疑わないと診断できない。

インスリンボールは、まずは疑ってチェックしないと見つけることはできません。

このため、

 
Gajigaji Dog
医療者も患者さん自身も、定期的におなか(注射部位)を触って、インスリンボールがないかチェックしましょう!

と言われています。

しかし…

さわってもわからないインスリンボールがあるようです。

 
Gajigaji Dog
じゃあ結局わかんないじゃん!

 

触ってもわからないインスリンボールがある!?

東京医科大学の長瀬先生らによる「触診でわからないインスリンボール」についての症例報告が最近publishされていました。

報告されていた2症例は、インスリン治療中の2型糖尿病患者さんです。インスリンの効きが悪く血糖も乱高下しており、経過からはインスリンボールの形成が疑われたようですが、触診では注射部位の変化は全くなかったようです。

しかし、MRI検査を行うと、なんとアミロイド―シス(インスリンボール)が見つかりました。

その場所を避けて注射すると、一気に血糖値が改善し、インスリン必要量も半減したとのことです。

インスリンボールと、その他の正常部分に注射した際のインスリン濃度のグラフです。

 
Gajigaji Dog
こんなに違うのか!

「触診してもわからないインスリンボール」は、本当に存在するのですね。

MRIはそうそう簡便に行える検査ではありませんが、エコーでも診断は十分に可能とのことです。

インスリンボールを触れないが、経過から疑わしい患者さんでは、エコーで注射部位を確認するか、注射部位を全く違う場所に変えてみることが必要かもしれません。

MRI検査ではじめてわかったインスリンボール(アミロイド沈着)
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Impaired absorption of insulin aspart from lipohypertrophic injection sites. Johansson UB, Amsberg S, Hannerz L, Wredling R, Adamson U, Arnqvist HJ, Lins PE. Diabetes Care. 28:2025-7, 2005

Insulin-derived amyloidosis without a palpable mass at the insulin injection site: A report of two cases.Nagase T, Iwaya K, Kogure K, Zako T, Misumi Y, Kikuchi M, Matsumoto K, Noritake M, Kawachi Y, Kobayashi M, Ando Y, Katsura Y. J Diabetes Investig. 11:1002-5,2019 Online ahead of print

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