1型糖尿病を「治す」ための免疫療法として、抗体療法や、抗原特異的療法が研究されている。
1型糖尿病は、膵β細胞に対する自己免疫反応が起こり、インスリンを分泌する細胞である膵β細胞が破壊されてしまうことにより、発症すると考えられています。
このため、1型糖尿病の発症を「予防する」もしくは「治す(根治させる)」ことを目的として、発症前もしくは発症早期の段階で自己免疫反応を抑えて膵β細胞が攻撃されないようにする免疫療法が、日々研究されています。
CD20抗体療法やCTLA-4抗体療法などは一定の効果を認めたものの、「治す」ほどの有効性は認めなかった。
抗体療法のなかでは、T細胞を標的としたCD3抗体療法が有名です。
発症早期の1型糖尿病患者さんに対して2週間のCD3抗体投与で、その後1年間のインスリン分泌低下が緩やかになったと報告されています(Diabetes 62:3766-74, 2013)。
そのほかの抗体療法としては、CD20抗体療法や、CTLA-4抗体療法などの研究が進められているようです。
抗原特異的療法として、発症前のインスリン投与療法や、GADワクチンが注目されているが、その有効性についてはまだ不明な点も多い。
膵β細胞破壊のきっかけとなる抗原を、先に投与しておくことで、自己免疫反応が起こらないように(免疫寛容を誘導)することを目的とした治療です。
たとえば、インスリンが抗原となっていると考えて、発症前や発症早期にインスリンを飲んでもらったり(経口投与)、注射したり(皮下投与)した研究がありますが、高い有効性は得られなかったようです。
また、1型糖尿病患者さんではGAD抗体が陽性になることから、GADが膵β細胞破壊の原因分子ではないかという説があり、GADワクチンの研究も進められています。
1型糖尿病発症早期の患者さんに対するGADワクチン投与により、インスリン分泌低下を抑制する効果が報告されています(Diabetologia 63:2177-2181,2020)が、どこまで、どの程度、その効果が持続するのかについては、まだわかっていません。
その他、膵移植や再生医療なども「根治療法」のひとつですね。
1型糖尿病患者に対するゴリムマブ投与により、2年間にわたり内因性インスリン分泌の低下が抑制された。
1型糖尿病患者さんに対するゴリムマブ投与により、インスリン分泌低下が抑えられるかを調べた研究です。
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ゴリムマブは、関節リウマチの生物学的製剤として使用されている抗ヒトTNFαモノクローナル抗体です。
1型糖尿病発症早期(診断後100日以内)の小児~若年者(6~21歳)を対象に行われた第2相の二重盲検多施設共同研究です。
なお、4時間混合食負荷試験におけるC-ペプチド(インスリン分泌能)の最大値が0.2pmol/mL以上である人が対象となりました。インスリン分泌がわずかでも残っている人たちですね。
対象者は2:1の割合で、ゴリムマブの皮下投与群( 52 週間)とプラセボ群に無作為に割り付けられ、主要評価項目として、52週後の内因性インスリン分泌能(4時間混合食負荷試験時のCペプチドAUC)が比較されました。
副次評価項目としては、インスリン投与量、HbA1c、反応Cペプチド、低血糖イベント数、空腹時プロインスリン/C-ペプチドなどが比較されました。
まず、インスリン分泌能の推移が下図です。
ゴリムマブ群では、52 週の時点でもインスリン分泌低下がわずかですね。(有意差あり)
HbA1cに関しては、目標血糖値まで下がるようにインスリン投与量を調節するルール(treat-to-target)になっている研究のため、有意差を認めませんでした(下図)が、
試験期間中のインスリン使用量の変化については、
プラセボ群ではインスリン必要量が増加したのに対して、ゴリムマブ群ではほとんど増加しませんでした!(有意差あり。下図)
ただし、この研究でも、1型糖尿病が寛解(インスリン治療が不要になる)するまでの有効性は、まだ認められていません。
残っているインスリン分泌が、血糖の微調節をしてくれることにより、血糖の乱れ(変動)が小さくなり、予想外の高血糖、低血糖がかなり抑えられるのです。
その結果として、良好な血糖コントロールを維持しやすくなり、合併症の進行も抑えられます。
1型糖尿病が治る時代が、もうそこまで来ているのかもしれません。
Golimumab and Beta-Cell Function in Youth with New-Onset Type 1 Diabetes. Quattrin T, Haller MJ, Steck AK, Felner EI, Li Y, Xia Y, Leu JH, Zoka R, Hedrick JA, Rigby MR, Vercruysse F; T1GER Study Investigators. N Engl J Med. 383:2007-2017,2020
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