1型糖尿病を治すためのチャレンジ~免疫療法~

Laboratory Analysis Chemistry  - jarmoluk / Pixabay

1型糖尿病を「治す」ための免疫療法として、抗体療法や、抗原特異的療法が研究されている。

モッさん
モッさん
1型糖尿病を治す?

1型糖尿病は、膵β細胞に対する自己免疫反応が起こり、インスリンを分泌する細胞である膵β細胞が破壊されてしまうことにより、発症すると考えられています。

このため、1型糖尿病の発症を「予防する」もしくは「治す(根治させる)」ことを目的として、発症前もしくは発症早期の段階で自己免疫反応を抑えて膵β細胞が攻撃されないようにする免疫療法が、日々研究されています。

モッさん
モッさん
免疫療法?どんな治療?
膵β細胞を攻撃するT細胞やB細胞の働きを抑える抗体を投与する抗体療法や、
ガジガジDr.
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膵β細胞破壊のきっかけとなる抗原を前もって投与して体に慣れさせて、自己免疫反応を起こりにくくさせる(免疫寛容の誘導)抗原特異的療法などがあります。
ガジガジDr.
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CD20抗体療法やCTLA-4抗体療法などは一定の効果を認めたものの、「治す」ほどの有効性は認めなかった。

抗体療法のなかでは、T細胞を標的としたCD3抗体療法が有名です。

発症早期の1型糖尿病患者さんに対して2週間のCD3抗体投与で、その後1年間のインスリン分泌低下が緩やかになったと報告されています(Diabetes 62:3766-74, 2013)。

そのほかの抗体療法としては、CD20抗体療法や、CTLA-4抗体療法などの研究が進められているようです。

これらの研究では、一定の有効性が報告されているものの、現時点ではインスリン分泌低下を完全に抑える効果はまだ証明されていません。
ガジガジDr.
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抗原特異的療法として、発症前のインスリン投与療法や、GADワクチンが注目されているが、その有効性についてはまだ不明な点も多い。

モッさん
モッさん
ワクチン?
そうです、発症予防や進行抑制のためのワクチンです!
ガジガジDr.
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膵β細胞破壊のきっかけとなる抗原を、先に投与しておくことで、自己免疫反応が起こらないように(免疫寛容を誘導)することを目的とした治療です。

たとえば、インスリンが抗原となっていると考えて、発症前や発症早期にインスリンを飲んでもらったり(経口投与)、注射したり(皮下投与)した研究がありますが、高い有効性は得られなかったようです。

また、1型糖尿病患者さんではGAD抗体が陽性になることから、GADが膵β細胞破壊の原因分子ではないかという説があり、GADワクチンの研究も進められています。

1型糖尿病発症早期の患者さんに対するGADワクチン投与により、インスリン分泌低下を抑制する効果が報告されています(Diabetologia 63:2177-2181,2020)が、どこまで、どの程度、その効果が持続するのかについては、まだわかっていません。

その他、膵移植や再生医療なども「根治療法」のひとつですね。

前置きが長くなりましたが、最近、1型糖尿病患者さんの「根治」を目標とした新しい免疫療法のデータが報告されていたので、ご紹介します!
ガジガジDr.
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1型糖尿病患者に対するゴリムマブ投与により、2年間にわたり内因性インスリン分泌の低下が抑制された。

1型糖尿病患者さんに対するゴリムマブ投与により、インスリン分泌低下が抑えられるかを調べた研究です。

モッさん
モッさん
ゴムマリか…

僕はテニスボール持ってるよ。噛み心地バツグン!

ゴリムマブです。
ガジガジDr.
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ゴリムマブは、関節リウマチの生物学的製剤として使用されている抗ヒトTNFαモノクローナル抗体です。

1型糖尿病発症早期(診断後100日以内)の小児~若年者(6~21歳)を対象に行われた第2相の二重盲検多施設共同研究です。

なお、4時間混合食負荷試験におけるC-ペプチド(インスリン分泌能)の最大値が0.2pmol/mL以上である人が対象となりました。インスリン分泌がわずかでも残っている人たちですね。

対象者は2:1の割合で、ゴリムマブの皮下投与群( 52 週間)とプラセボ群に無作為に割り付けられ、主要評価項目として、52週後の内因性インスリン分泌能(4時間混合食負荷試験時のCペプチドAUC)が比較されました。

副次評価項目としては、インスリン投与量、HbA1c、反応Cペプチド、低血糖イベント数、空腹時プロインスリン/C-ペプチドなどが比較されました。

モッさん
モッさん
効果あったの?
ありました
ガジガジDr.
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まず、インスリン分泌能の推移が下図です。

ゴリムマブ群では、52 週の時点でもインスリン分泌低下がわずかですね。(有意差あり)

 

HbA1cに関しては、目標血糖値まで下がるようにインスリン投与量を調節するルール(treat-to-target)になっている研究のため、有意差を認めませんでした(下図)が、

 

試験期間中のインスリン使用量の変化については、

プラセボ群ではインスリン必要量が増加したのに対して、ゴリムマブ群ではほとんど増加しませんでした!(有意差あり。下図)

モッさん
モッさん
インスリン注射量があまり増えなかったというのは、体からのインスリン分泌がほとんど減らなかった結果だね!

ただし、この研究でも、1型糖尿病が寛解(インスリン治療が不要になる)するまでの有効性は、まだ認められていません。

しかし、インスリン注射が不要になるレベルでなかったとしても、内因性インスリン分泌が枯渇せず残るということは、血糖コントロールの面では大きなメリットとなります
ガジガジDr.
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残っているインスリン分泌が、血糖の微調節をしてくれることにより、血糖の乱れ(変動)が小さくなり、予想外の高血糖、低血糖がかなり抑えられるのです

その結果として、良好な血糖コントロールを維持しやすくなり、合併症の進行も抑えられます。

現在多くの研究が精力的に行われています!
1型糖尿病が治る時代が、もうそこまで来ているのかもしれません。
ガジガジDr.
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Golimumab and Beta-Cell Function in Youth with New-Onset Type 1 Diabetes. Quattrin T, Haller MJ, Steck AK, Felner EI, Li Y, Xia Y, Leu JH, Zoka R, Hedrick JA, Rigby MR, Vercruysse F; T1GER Study Investigators. N Engl J Med. 383:2007-2017,2020

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