まずは、神経伝導検査についてのおさらいからはじめましょう。
糖尿病神経障害を調べる方法のひとつとして神経伝導検査がある。
糖尿病神経障害の検査法のひとつに神経伝導検査があります。
これは、末梢神経の伝導速度(神経が刺激を伝える速さ)、振幅(神経束の量)を実際に測定して、神経がダメージを受けているか直接調べてしまおう!という検査です。
詳しく調べるためには、手と足を走っている神経から2神経程度選んで、ひとつずつ調べていくのが確実ですが、検査に結構な時間がかかってしまいます。
このため、最も早期に神経障害が出現しやすい足について、足を走っている神経のひとつである腓腹神経のみ調べる方法もあります。
(ちなみに当院もこの機器を用いて検査しています)
下のデータをご覧ください。
実線が日本人なのですが、米国人よりも日本人のほうが伝導速度が速く、振幅もやや大きいですね。
また、身長と年齢によりデータは変化します。
この報告では、これらデータを用いて日本人の(腓腹神経)伝導速度、振幅のカットオフ値が示されました。(これより低ければ異常)
腓腹神経伝導検査異常と総ビリルビン値は逆相関した。
九州大学の先生らの報告です。
入院中の糖尿病患者さん150人に対して腓腹神経伝導検査を行い、そのデータから神経障害の有無および重症度を判定しました。そして、神経障害と血中ビリルビン値との関係が調べられました。(横断研究)
ビリルビンって黄疸の値だから、
糖尿病とは関係ないよね?
たしかに、ビリルビンは肝臓の悪い人や胆道の病気などで上がる値ですが、
「体質性黄疸」といって、生まれつきビリルビン値が高めの人たちがいるのですが、
その人たちは動脈硬化が進みにくいことが知られています。
(軽症:振幅≧4uV,伝導速度<40m/s 中等症:振幅≧1,<4uV 重症:振幅<1uV)
ビリルビンが糖尿病の大血管障害だけでなく、細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)進行にも抑制的に働くことが、以前よりいくつかの報告で示されています。
このメカニズムとしては、抗酸化作用、AGEs(週末糖化産物)形成の抑制作用などを介してビリルビンがこれらの合併症進行を抑制するのではないかと考えられています。
ただし、これはあくまで横断研究ですので、ビリルビン値と神経障害の因果関係は全くわかりません。
すなわち、このデータからは「ビリルビンが低いから神経障害が進みやすい」と結論付けることはできないのです。(もしかすると理由と結果は逆なのかもしれません。)
Bilirubin is inversely related to diabetic peripheral neuropathy assessed by sural nerve conduction study. J Diabetes Investig. 2021 May 5. doi: 10.1111/jdi.13568. Online ahead of print