きちんと糖尿病のお薬を飲みましょうって話?
なんの薬?
COVID-19感染前に内服していた糖尿病薬により予後(死亡や重症化)が変わるのか?
アメリカの電子個人データベース(EHR:Electronic Health Record)を用いて行われたコホート観察研究です。
2018年1月から2021年2月にCOVID-19に感染した(=PCR検査で陽性となった)18才以上の糖尿病患者さんのうち、PCR陽性となった日から遡って24ヶ月以内にDPP-4阻害薬もしくはGLP-1受容体作動薬/SGLT2阻害薬を使用していた人が対象となりました。
DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬を併用していた人と、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬を併用していた人は除外されました。
COVID-19に感染する前にDPP-4阻害薬を使用していた人(DPP4i群)とGLP-1受容体作動薬を使用していた人(GLP-1RA群)において、COVID-19による死亡率と重症化率が比較されました。
さらに、DPP-4阻害薬を使用していた人(DPP4i群)と、SGLT2阻害薬を使用していた人(SGLT2i群)においても同様の比較が行われました。
併用していた人は、DPP4i群とSGLT2i群の両方に入りました。
背景因子の調整は傾向スコア解析により行われた。
しかし、このような観察研究では比較する2群間の背景がバラバラかもしれません。
例えば、高齢患者さんではCOVID-19に感染すると重症化しやすいことがわかっていますが、GLP-1RA群のなかに若い人が多くGLP-1RA群のなかに高齢者が多ければ、GLP-1RA群で重症化する人は少ない結果となり、薬剤の効果と間違えて解釈してしまう可能性があります。
ごく簡単にいうと、傾向スコア解析とは、このような観察研究の場合に各群の背景の違いが結果に影響を及ぼさないように患者背景を揃える手法です。
ウトウト…、グー
60日以内の死亡率はDPP4i群と比較して、GLP-1RA群、SGLT2i群で有意に低かった。
さて、主要評価項目はPCR検査陽性後60日以内の死亡、副次評価項目は観察期間の死亡/救急受診(14日以内)/入院(14日以内)/人工呼吸器装着(14日以内)とされました。
まず、データベースのうち上記の基準を満たしたのは12446人で平均年齢58.6歳でした。
このうち3.1%(12446人のうち387人)が60日以内に死亡しましたが、
各群ごとに見てみると、
GLP-1RA群では2.06%(6692人のうち138人)、SGLT2i群では2.32%(3665人のうち85人)、DPP4群では5.67%(3511人のうち199人)が60日以内に死亡しました。
そこで、傾向スコア解析 で各群の背景を調整して比較が行われました!
主要評価項目(60日以内の死亡)について、GLP-1RA群のオッズ比(vs DPP4群)は、なんとTMLE法で0.54(0.37-0.80)、IPTW法で0.54(0.42-0.70)でした。
※TMLE(targeted maximum likelihood estimation):二重頑健推定法、およびIPTW(Inverse probability treatment weighted):逆確率重み付け法はどちらも傾向スコア解析の手法です。
SGLT2i群とDPP4群の比較では、
主要評価項目(60日以内の死亡)について、SGLT2i群のオッズ比(vs DPP4群)は、TMLE法で0.66(0.50-0.86)、IPTW法で0.56(0.42-0.73)と、これまた極めて低い結果でした。
調整できていない背景因子や観察研究における弱点もある。
GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬の使用者で、COVID-19による死亡率が低下した要因はわかりませんが、ひとつには抗炎症作用(サイトカインストームを抑える)などが考えられているようです。
この研究では、各患者さんの経済状況(例えば日本と保険制度が異なる米国では、GLP-1受容体作動薬を使用している人は高所得者が多い)や、治療を受けた医療機関、COVID-19感染症の治療中の血糖コントロール状況などについては情報が収集できなかったため調整がされていないことや、
糖尿病薬の開始時期や使用期間についても調べられていませんし、
傾向スコア解析を用いて調整はされているもののDPP4i群では高年齢の人や腎障害などがある人が多く含まれていたので、
現段階では、ひとつの研究結果として受け止めておくくらいのほうがよさそうです。(期待してしまいますが!)
Association Between Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonist and Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitor Use and COVID-19 Outcomes.Diabetes Care. 2021