糖尿病を持つ患者さんでは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが上がることが報告されていますが、もともとの血糖コントロール状況と重症化との関係について、詳しいことはわかっていません。
血糖コントロールが悪くなると免疫能が低下することは明らかなので、重症化しやすいのは紛れもない事実だと思いますが、HbA1cが何%以上で重症化リスクがどの程度上がるのか具体的に示されたデータは今まで全くありませんでした。
COVID-19発症時や発症後(入院中)の血糖値が上がる人ほど重症化しやすいといういくつかの報告がある。
COVID-19を発症した患者さんについて、発症時や発症後(入院中)の血糖値と重症化との関連を調べた報告はいくつかあります。
糖尿病患者さんだけでなく、糖尿病のない患者さんについても、発症時や発症後の血糖値が高いほど重症化しやすいことが報告されています。
ただしこれらのデータは、血糖コントロールが悪いから重症化したというよりも、COVID-19によって各臓器が大きなダメージを受けたことの結果として血糖値が上がる、ということを表しているのだと思います。
COVID-19に限らず、感染症にかかると血糖値が上がりますし、重症感染症であるほどその傾向が強くなることを、日常診療でもよく経験します。
COVID-19と診断された2型糖尿病患者の、診断前HbA1cと重症化率の関係はS状カーブ
イスラエル最大の保険組織であるCHS(Clalit Health Services)の電子健康情報システム(EHR:Electric Health Record)における、4.7億人を超える加入者データベース(53%くらいがイスラエル人)を用いて行われました。
データベース登録者のうち、以下の基準を満たした患者さんが今回の研究対象となりました。
①2020年2月~9月にPCR検査で陽性となりCOVID-19と診断された。
②CHSに1年以上登録されている。
③2型糖尿病と診断されている。(本研究では1型糖尿病は除外されています)
④25才以上
⑤COVID-19の診断前6ヶ月以内のHbA1cデータがある。
上記を満たした対象者は5869人であり、平均HbA1cは7.24%でした。
また、このうち1014人が重症化したという結果でした。
※本研究における重症化の定義:発症後45日以内の死亡もしくは、肺炎+以下の一つ以上を満たした場合(呼吸数>30/分、SpO2 <94%(室内気)、PaO2/FiO2 <300 mmHg、人工呼吸器装着、呼吸不全、敗血症)
このデータを用いた一般化加法モデルにより、COVID-19診断前のHbA1cと、重症化リスクの関係を示したのが下図です。
(下図は、年齢、性別、BMI、人種、経済状況、喫煙、高血圧、心疾患、脂質異常症、悪性腫瘍、腎疾患、末梢血管疾患、肺疾患、糖尿病罹病期間、糖尿病合併症、糖尿病薬で補正されています)
HbA1c6%では、HbA1c8%と比較して比べて重症化リスクが29%低下する。
(下表は、年齢、性別、BMI、人種、経済状況、喫煙、高血圧、心疾患、脂質異常症、悪性腫瘍、腎疾患、末梢血管疾患、肺疾患、糖尿病罹病期間、糖尿病合併症、糖尿病薬で補正されています)
糖尿病の患者さんでは、COVID-19が重症化しやすいというのはおそらく事実だと思いますが、感染する前の血糖コントロール状況も非常に大切という研究データが今回示されました。
※ただし、これらの報告はまだ大変少ないので、今後のデータ集積によりさらに正確なことがわかってくると思います。
今、私たちが持っている数少ない情報から総合的に考えると、HbA1c7%未満、低血糖が増えなければ6.5%あたりを目指すのが理想かもしれません。
Preinfection glycaemic control and disease severity among patients with type 2 diabetes and COVID-19: A retrospective, cohort study. Hayek S, et al. Diabetes Obes Metab. 2021 Online ahead of print.
※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載はご遠慮ください.