(2021.3.5 記事の一部を修正加筆しました)
ついに2020年6月29日にリベルサスの製造販売承認が下りました。米国では2019年9月に承認されていたので、約1年遅れでしたね。
実は、GLP-1受容体作動薬は、経口薬の開発は難しいと考えられていました。
ペプチド構造で分子量が4000程度と大きいため、胃からの吸収が難しく、さらに消化酵素によりすぐに分解されてしまうので、飲み薬で効果を発揮するのが難しかったのです。
しかし、サルカプロザートナトリウム(SNAC)と呼ばれる吸収促進剤を添加することで、SNACとセマグルチドの複合体が、ペプシンにより分解されにくくなり胃からの吸収が促進され、経口で十分な効果を発揮できるようになりました。
それでは、その効果は如何ほどでしょうか?
早速みていきましょう!
- 0.1 PIONEERシリーズ:経口セマグルチド(リベルサス)の臨床研究を一気に解説!
- 0.2 PIONEER 1~10の総まとめ
- 0.2.1 PIONEER 1 : 経口セマグルチド(3, 7, 14mg) vs プラセボ(偽薬)
- 0.2.2 PIONEER 2 : 経口セマグルチド(14mg) vs エンパグリフロジン(ジャディアンス)
- 0.2.3 PIONEER 4 : 経口セマグルチド(14mg) vs リラグルチド1.8㎎(ビクトーザ)
- 0.2.4 PIONEER 5 : GFR 30~59の2型糖尿病患者を対象 経口セマグルチド vs プラセボ(偽薬)
- 0.2.5 PIONEER 6 : 心血管アウトカム試験 (CVOT)
- 0.2.6 PIONEER 7 : 経口セマグルチド(flex) vs シタグリプチン100㎎(ジャヌビア)
- 0.2.7 PIONEER 9 : とうとう日本人における研究データです!
- 0.2.8 PIONEER 10 : 日本人におけるデータ2つ目!
- 0.3 26~52週のリベルサス14㎎投与により、1.2~1.8%のHbA1c低下、3~4㎏の体重減少効果あり。
- 1 ゾルトファイとソリクア比較~日本人に最適な配合剤はどちら?
PIONEERシリーズ:経口セマグルチド(リベルサス)の臨床研究を一気に解説!
セマグルチド注射薬(オゼンピック)の血糖改善や体重への効果、安全性を評価した、2型糖尿病患者さんを対象としたランダム化比較試験が「SUSTAIN」シリーズでしたね。
壮大なSUSTAIN シリーズを以前にご紹介しましたが、このPIONEERシリーズもそれに負けず劣らず壮大です。
PIONEERシリーズは、セマグルチド経口薬(リベルサス錠)の血糖改善や体重への効果、安全性を評価した、2型糖尿病患者さんを対象としたランダム化比較試験です。
ざっくり言うと、SUSTAINシリーズのセマグルチド経口薬(リベルサス)バージョンですね。
PIONEER 1~10はすでにpublishされていますし、11,12も現在進行中です。
さて、PIONEER 1~10の結果は…
PIONEER 1~10の総まとめ
PIONEER 1 : 経口セマグルチド(3, 7, 14mg) vs プラセボ(偽薬)
食事療法で治療中の2型糖尿病患者さんに対して行われました。リベルサスの用量依存的な血糖改善効果、体重減少効果が認められました。
PIONEER 2 : 経口セマグルチド(14mg) vs エンパグリフロジン(ジャディアンス)
第2段階はいきなりSGLT2阻害薬との対決です。メトホルミンで治療中の2型糖尿病患者さんに対して行われました。リベルサスのHbA1c低下効果が勝りました。
気になる体重減少効果については…. これもリベルサスに軍配です。(経口セマ4.7㎏減少、対してエンパグリフロジンは3.8kg減少)
PIONEER 3 : 経口セマグルチド(3, 7, 14mg) vs シタグリプチン(ジャヌビア)100㎎
おそらく日本で最も使用されている経口薬、DPP-4阻害薬との対決です。メトホルミンなど経口血糖降下薬で治療中の2型糖尿病患者さんに対して行われました。
この研究では、リベルサス3㎎、7㎎、14㎎との対決でしたが、リベルサス14㎎はシタグリプチン100㎎よりも血糖降下作用が強いという結果でした。
ちなみに、リベルサス7㎎とシタグリプチン100mg のHbA1c 低下作用が同程度でした。経口セマ強し!
PIONEER 4 : 経口セマグルチド(14mg) vs リラグルチド1.8㎎(ビクトーザ)
主要評価項目である26週後のHbA1c変化率は、なんとリベルサス14㎎とビクトーザ1.8㎎で同等(1.2% vs 1.1%) の結果でした。経口薬が注射薬と同等に血糖を下げるとは驚きです!
さらに驚くべきことに、副次評価項目である52週のHbA1c変化率では、リベルサスが勝ってしまいました…(1.2% vs 0.9%) 。
体重減少効果においても、26週の時点でリベルサスが勝ちました。(4.4kg vs 3.1kg)
PIONEER 5 : GFR 30~59の2型糖尿病患者を対象 経口セマグルチド vs プラセボ(偽薬)
「腎機能低下を有する患者さんにおいても(腎機能正常者と遜色ない)血糖改善効果がある!」ということが示されました。これはSGLT2阻害薬より一歩抜きんでた特長かもしれません。
PIONEER 6 : 心血管アウトカム試験 (CVOT)
新規糖尿病治療薬に対して心血管イベントに関する安全性を評価する臨床試験が米国FDAにより義務付けられており、これに基づき行われた試験ですね。
3P-MACEで評価された心血管リスクは経口セマグルチドにより増加せず、少なくとも本研究では「経口セマグルチドは心血管への悪い効果はない」という結果が示されました。
PIONEER 7 : 経口セマグルチド(flex) vs シタグリプチン100㎎(ジャヌビア)
PIONEER 3と似た試験ですね。ただしリベルサスは被検者のHbA1cの低下度や忍容性に合わせて投与量(3, 7, 14mg)を自由に選択・変更できるデザインでした。これもリベルサスに軍配。
PIONEER 8 : 基礎インスリン治療中の2型糖尿病患者を対象とした経口セマグルチド vs プラセボ(偽薬)投与試験
基礎インスリン治療を行っている2型糖尿病患者さんへのリベルサス追加では、56週で1.2%程度のHbA1c低下を認め、体重も4㎏程度低下しました(リベルサス14㎎の場合)。
これだけHbA1cは下がったにもかかわらず、低血糖の発症率は増えませんでした。
インスリン治療患者さんへの追加投与で、安全で高い効果が期待でき、インスリン治療で問題となる体重についても減少効果があるのは素晴らしいことだと思います。
PIONEER 9 : とうとう日本人における研究データです!
経口薬1剤もしくは食事療法で治療中の2型糖尿病患者さんを対象とした、リベルサス3mg, 7mg, 14mgとビクトーザ0.9㎎ の比較試験です。もちろんリベルサス(14㎎)に軍配です。
それでは、ビクトーザ0.9mgは、どれくらいの用量のリベルサスと同程度の血糖低下効果なのか、というところが気になりますよね。
こんな結果でした。
リベルサス7㎎とビクトーザ0.9㎎が同じくらいの血糖低下効果でした。
ビクトーザ、あんなに効くのに…。
どれだけ吸収がいいんだリベルサス。
PIONEER 10 : 日本人におけるデータ2つ目!
経口薬1剤もしくは食事療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした、リベルサス 3mg, 7mg, 14mg とデュラグルチド(トルリシティ)0.75㎎/週の比較試験です。リベルサス(14mg)に軍配です。
デュラグルチド0.75㎎/週と、リベルサス7㎎が、ほぼ同等の血糖低下効果でした。
26~52週のリベルサス14㎎投与により、1.2~1.8%のHbA1c低下、3~4㎏の体重減少効果あり。
今までチマチマと解説しましたが、実はPIONEER 1~10のデータをまとめたレビューがあります。
これを見ると一目でわかる!
オゼンピック(セマグルチド注射薬)とのガチの対決はありませんが、第2相の臨床試験では、リベルサス10mg、20㎎とオゼンピック1.0㎎は、ほぼ同等の血糖改善、体重減少効果を認めました。
(リベルサスは内服方法を守らないと、吸収が低下し、その効果がかなり減弱してしまいますが、正しい方法で内服できれば、オゼンピックとほぼ同等の血中濃度まで上昇することがわかっています。)
各研究の詳細についてはClinicalTrials.govをご参照ください。
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