オゼンピック(セマグルチド)は2020年に我が国でも糖尿病患者さんに対して使用できるようになった週 1 回投与のGLP-1 受容体作動薬ですね。
その血糖改善効果や体重減少効果は、GLP-1受容体作動薬のなかでもかなり強いことが期待されています。
オゼンピックの血糖改善効果の凄さについては、こちらの記事をどうぞ
糖尿病患者にオゼンピックを半年~1年間投与すると、5~6㎏程度は体重が減る。
これは、2型糖尿病患者さんを対象として行われたセマグルチドの臨床試験であるSUSTAIN1~5の体重減少量をまとめたものです。セマグルチド1.0㎎投与で、平均5~6㎏減っていますね。
(SUSTAIN1、4、5は30週、2、3は56週の投与期間)
***SUSTAINシリーズについては、こちらの記事をどうぞ***
BMIが大きくなるほど、体重の減りは大きくなるようです。
逆に、BMI30未満の「ちょっと重め」な肥満の人でも、4~5㎏体重が減っていますね。
オゼンピック投与で体重が減る理由
「どうしてオゼンピックで体重が減るの?」という素朴な疑問に答えてくれる論文があります。
糖尿病ではないBMI30以上の肥満者に対して、3ヶ月間オゼンピック1.0㎎を週1回注射して、体重の変化、摂取カロリーの変化、食欲や嗜好、食べたい気持ちの変化を調べた研究です(Diabetes Obes Metab. 19: 1242–1251,2017)。
試験デザインは、二重盲検、無作為2群2期クロスオーバー、プラセボ対照試験です。
参加者の平均年齢は42歳、体重は101㎏(BMI33.8)でした。結構肥満ですね。
まず体重について、たった3ヶ月間で5kgの体重減少を認めました。下図を見ると、投与を続ければまだまだ減りそうですね。
基礎代謝には影響せず、1日の摂取カロリーが大幅に低下する。
被検者にオゼンピックもしくはプラセボ(偽薬)を週1回朝に投与して、3ヶ月後の食事摂取量を比較しています。
朝食は皆同じものが提供されるのですが、昼食、夕食、(夕食後から深夜まで提供される)色々な種類のおやつは、自由にどれだけでも食べられるようになっています。
これは大きな誘惑ですね~
プラセボ群(偽薬)とオゼンピック投与群の人たちの昼食、夕食、おやつ、1日トータルの摂取カロリーは、どれくらい差があったでしょうか?
自由にどれだけでも食べられるにかかわらず、オゼンピックを投与されている群では、かなり摂取カロリーが減っています。1日トータルで見てもかなり減っていますね!
この論文では、基礎代謝についても測定されているのですが、オゼンピックにより基礎代謝が上がるということはありませんでした。
オゼンピックで食事量が減る理由
でも、食に対する楽しみやが奪われたり、悪心や嘔吐で苦しんで痩せるのは嫌ですよね。
そこで、「どうして食べなくなったのか?」の真実に迫るため、被験者の食欲や嗜好、食べたい気持ちの変化が調べられました。
方法は次の①~③です。
①食欲に関する質問紙による調査(VASスケール質問紙法)→なんと食前から次の食前まで30分毎に答えます。被検者も大変ですね。
➁食事に対する渇望(食べたい気持ち)についての質問紙による調査
③おやつの時間に好んで食べたものの記録による調査と、被検者に食べ物の写真を見せて、食べたいものを選択させる調査
食事前の空腹感が抑えられる
①では、オゼンピックを投与すると、次の食事の前になっても空腹感がそこまで強くならない、という結果でした。満腹感も食後長く続きます。
ちなみに、気分の悪さや、体調の悪さなどなどは、差がありませんでした。
食べることへの渇望(食べたい!気持ち)が低下して、食行動のコントロールがしやすくなる。
➁では、オゼンピックを投与すると、食事に対する渇望が小さくなり、食事のことを考える頻度が減って、食事量のコントロールがしやすくなったと感じるという結果でした!
一方、食事に対する楽しみは減るという結果でした。
楽しみはちょっと減るのですね…
オゼンピック投与により食事の嗜好が変わる
③では、
「 高脂肪で甘いもの」
「 高脂肪で甘くないもの」
「 低脂肪で甘いもの」
「 低脂肪で甘くないもの」
のうち、
オゼンピック投与群では、「高脂肪で甘くないもの」を食べる量や、食べたい気持ちが低下していました。
ただし、「 低脂肪で甘いもの」を食べる量や、食べたい気持ちは減らなかったとのことです。
この論文によると、「高脂肪で甘くないもの」の例は、こういうもの、
「 低脂肪で甘いもの」の例は、こういうものでした。
肥満の人では、特に高脂肪食への依存性が高く、ある研究によると、その依存性は麻薬に匹敵することが報告されています。
「GLP-1受容体作動薬が食の嗜好を変える」というデータが真実であるかは、少なくとも今回の研究結果だけでは何とも言えないところですが、もしそうだとすれば、そのメカニズムが知りたいところですね。
GLP-1受容体作動薬は「やせ薬」ではない
ただし、この薬剤は「やせ薬」ではありません。
医学的に血糖コントロールと体重コントロール)が必要な患者さんに対して、使用される薬剤です。
また、糖尿病患者さんにおいても「この薬さえ使えば痩せる」というわけではありません。(このように考えて安易にGLP-1受容体作動薬を始めると、本当に体重は減りません…)
糖尿病患者さんが食事療法とともに、この薬剤を使用して、初めてこの薬剤のよい効果が発揮され、血糖が下がり(肥満の人では)体重が減るのです。
患者さんが、自身の食生活を見直すきっかけを作る、食習慣の改善のきっかけを作る薬剤だと思います。
しかし、食べ物のことばかり書いていたらおなかがすいてきましたね…
<おまけ>
ビクトーザとほんのちょっと違うセマグルチドの構造が、作用時間や効果を強くしている。
さて、これは余談ですが、
オゼンピックとビクトーザの構造はほとんど同じにもかかわらず、なぜ効果の違いがあるのでしょうか?
ほんの少しの構造の違いにより、アルブミン結合能が格段に上がり、DPP4による分解を受けにくくなっているのが原因だそうです(上図)
ちょっとした構造の違いが、結構大きな臨床効果の差を生み出すのですね。
Effects of once‐weekly semaglutide on appetite, energy intake, control of eating, food preference and body weight in subjects with obesity. Blundell J, et al.Diabetes Obes Metab. 19: 1242–1251,2017
Discovery of the Once-Weekly Glucagon-Like Peptide-1 (GLP-1) Analogue Semaglutide. Lau J,et al. J Med Chem.24:7370-80,2015
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