インスリンポンプは、「皮下に、持続的に、インスリンを注入することができる機械」のことです。
インスリン注射も、皮下にインスリンを注入することにより、効果を発揮します。
どちらもヒトの生理的なインスリン分泌パターンを模倣して作られていますが、インスリンの注入方法として、どこがどう違うのでしょうか?
同じインスリン製剤を使うのでしょうか?
インスリン製剤は、ヒトの生理的なインスリン分泌パターンを模倣して作られています。
したがって、インスリン治療について知るためには、この生理的なインスリン分泌について知る必要があります。
膵臓のβ細胞から分泌されるインスリン分泌には、①基礎分泌と➁追加分泌の2つがあります。
生理的なインスリン分泌パターン①追加分泌
ご飯やおやつを食べたり、ジュースを飲んだりした時に、血糖が上昇しはじめたタイミングで速やかに分泌されるインスリンです。
血糖が下がってくればインスリン分泌は速やかに消失しますので、基礎インスリンのように1日中分泌し続けているわけではありません。
さっと出て、さっとなくなるインスリンですね。
この働きにより、食事などで摂取した糖はうまく使われますし、血糖値(血液中の糖濃度)も上がりすぎないのですね。
生理的なインスリン分泌パターン➁基礎分泌
1日じゅう持続して分泌されるインスリンです。
何も食べなくても、この基礎インスリンは休むことなく出つづけます。
逆に言えば、すい臓からのインスリン分泌が高度に低下している1型糖尿病の患者さんでは、食事をとらなくても、基礎分泌を補うインスリンを外から補充することが必要になります。
さらに、詳しいことを説明すると、
この基礎インスリンは、1日中同じペースで分泌されているわけではありません。
実は、多くの患者さんで、明け方~午前中に多く、真夜中は少なめの傾向があります。特に子供さんや思春期では、この傾向が顕著になります。
これを、少し頭の片隅に置いておいてくださいね。
インスリン注射で使用するインスリン製剤
インスリン注射で使用するインスリン製剤は、①と➁の2種類を使用します。
この2つを組み合わせて、ヒトの生理的なインスリン分泌に近い形でインスリンを補います。
①作用時間の短いインスリン(超速効型、速効型インスリン)
→食事やおやつのたびに注射します。追加分泌を補うインスリンです。
➁作用時間の長いインスリン(持続型インスリン)
→1日1回注射します。基礎分泌を補うインスリンです。
この2つを組み合わせて、図のようなインスリン分泌のパターンを作るのですね。
インスリンポンプで使用するインスリン製剤
一方、インスリンポンプで使用するインスリン製剤は、1種類のみです。
機器には、数日分のインスリンを入れておく小さなタンク(リザーバー)がありますが、そこに入れることができるインスリンは1種類のみです。
一般には、インスリンポンプでは、超速効型インスリンを使用します。これはインスリン注射で使用する超速効型と全く同じものです。(従来のものよりさらに効果発現が早い、新しい超速効型インスリンも使用できます)。
数時間で切れてしまうほうのインスリンですね。
インスリンポンプでは、この1種類のインスリンで、追加分泌も、基礎分泌も補うのです。
追加インスリンは、基本的にはインスリン注射と一緒です。食べる前に注入ボタンを押してインスリンを投与します。
では、持続的に分泌されている「基礎分泌」を、短い作用時間のインスリンを使って、どのようにして補うのでしょうか?
超速効型インスリンが入る速度を時間ごとに変えながら絶え間なく注入して、その人に最も合った基礎インスリン分泌のパターンを作るのです。
ここから本題に入ります。
インスリン注射にはない、インスリンポンプの強み、メリット、デメリット、そして日本で使用できるポンプの種類については、こちらをお読みください。